なんとなく言っていることがわかるようになるまで半年

現地に実際に行くと、驚くほど英語が聞き取れず、通じない。英語で映画やニュースを見ても、多少はわかるようになったつもりでしたから、まったく通じないのはショックでした。マンチェスターの英語には訛りがあって、ロンドンが標準語だとしたら関西弁のような感じで、アクセントも発音も違います。耳にしているのが本当に英語なのかと疑ったほど(笑)。なんとなく言っていることがわかるようになるまで半年くらいかかりました。

新工場の建設プロジェクトは土地の契約をしたり、建設や機械の購入の手続きをしたり、現地の人を雇って訓練計画を立てたりする仕事。金額も大きいので、契約内容を間違えるわけにはいきません。しかし、言葉が通じませんから、最初はこれでいいのか?と毎回内容を紙に書いて相手と確認していましたね。

それでも、さまざまなトラブルがありました。発注した高価な機械が送られてくる途中で盗難に遭って、届けを出したり、保険の求償をしたり、機械がない状態をカバーする処理に走り回ったり、しかもそれらを英語でやらなければいけないのですから、まさに修羅場の連続。

きわめつきは、現地での妻のはじめての出産。病院でドクターが話す専門用語を、辞書を片手に聞いて、どの方法で出産するかを検討する。そのような際どい状況を乗り越えることが一番の勉強法だったのは間違いありません。

数々のトラブルに直面したことで、英語も正しい文法を意識するよりも、実際にどうしたら言いたいことが伝わるのか、どうすれば伝わったかどうかを確認できるのかを考えるようになりました。それが私の英語でのコミュニケーションのベースといえるかもしれません。

JTグループの海外本社はスイスのジュネーブにあり、従業員の国籍だけ見ても50を超えています。世界各地から優秀なメンバーが本社に集まり、グローバル企業で上を目指そうというハングリーな人がポジション争いをしています。そこでは、英語ができても、仕事ができなければ何の役にも立ちません。仕事ができるというベースがあったうえで、英語力がツールとして備わっている。英語は十分条件ではなく、あくまで必要条件ですね。

海外でのビジネスで、英語に加えて問われるのが「胆力」だと思います。日本人は子どもの頃から、まず自分から謝りなさいという教育を受けますよね。でも、海外の人たちはすぐには謝らない。むしろ、まず自分はこう思うときちんと主張しなさいという教育を受けている。