まとまったお金を手にしても気が大きくならないように
シミュレーションの結果、一時金の方が納税額がかなり少ないという結果が出た。それでは、なぜ年金方式が存在するのか。
年金方式は2%程度(運用率は会社により異なる)で運用され、その運用益が支給額に上乗せされるため、額面だと年金方式の方が高くなるのだ。
しかし、一時金は税金面で優遇されているので、手取りは一時金の方が高くなる。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏も、プレジデントオンラインの記事「退職金は“年金受け取りより一時金”なワケ」(2019年3月5日配信)で、「年金受け取りより一時金受け取りが有利」と指摘している。
税金面で多大なメリットがある一時金受け取りだが、冒頭でも説明したとおり、控除額は勤続年数によって違ってくる。勤続年数が長いほど控除額が多いが、短いほど少ない。転職が当たり前になった時代でも、税制は「定年まで1つの会社に勤め上げる」という昔ながらの働き方をする人に有利なまま、アップデートされていない。だが、今後も改正の動きはないのかというと、そうでもないようだ。
2019年10月2日の日本経済新聞に、「甘利自民税調会長『働き方による差是正』、退職金課税の見直し議論」という記事があった。
退職所得への課税は終身雇用を前提としている。甘利氏は転職を繰り返す人の増加などを念頭に「ライフコースの変革に向け適切な税体系がどうあるべきか議論したい」とし、2020年度税制改正で所得税の見直しを議論する考えを示した。
国としてもガイドラインを作るべきだ
また、大和総研政策調査部主任研究員の神尾篤史氏は、「所得税改革の次なる論点は? 働き方に中立的な税制に向けた取り組み」の中で、退職所得控除のあり方について言及している。
給与所得控除や基礎控除に続いて、退職所得控除についても見直す時期が来ているというわけだ。
退職金の受け取り方は、全くもって個人の自由だ。大切な退職金を一時金で受け取ったはいいが、運用方法が分からず、甘い言葉をかけてくる営業マンに一任することは避けたい。
国としては、一時金で受け取るのと、年金で受け取る場合の税負担が、10年で数百万円も差があることについてのガイドラインを作成するべきだろう。
退職金は長年勤めた自分へのご褒美でもある。個人レベルでも、退職後も幸せに暮らすためどのように運用するのか、時間をかけて、検討することが必要だと思う。