インドの“文化勲章”82歳の師匠に認められた逸材

カナメさんは父の仕事にともない、4歳から10歳までインドのデリーで過ごした。治安や気候上、自由な外出がままならないため、運動不足を心配した母の薦めで、4歳からバラタナティヤムを始めた。そしてすぐに夢中になった。

4歳のころのカナメさん
写真提供=富安敦子
4歳のころのカナメさん

「バラタナティヤム」とは、ヒンドゥー教の神に捧げる巫女の踊りだ。南インドのチェンナイで発祥し、3000年を超える歴史を持つ。足を床に打ちつけるステップが特徴で、手足の指先まで、全身を使って踊る。動きにヨガの要素が多く含まれることから「踊るヨガ」とも呼ばれ、日本でも都市部を中心に教室がある。体幹と足腰が鍛えられ、足を踏みならすステップは骨粗しょう症予防にもよいそうだ。

カナメさんが師事するのは、インド・バラタナティヤム界の権威である、グル・サロンジャ・ヴァイディヤナタン氏だ。彼女は北インド最大の舞踊学校の創設者であり、日本の文化勲章にあたるパドマ・ブーシャン賞を受賞。インド国内だけでなく、海外からの出演依頼も相次ぎ、コレオグラファー(振付師)としても活躍している。なお、82歳の今も現役のダンサーだ。

現在は父の帰任により、埼玉の小学校に通う6年生のカナメさん。インドにいる師匠からは、オンラインアプリのZOOMを通じてレッスンを受けている。

インドの神話や叙事詩がベース「バラタナティヤム」に魅せられて

バラタナティヤムは、インドの女の子の習い事として人気があるという。日本でいうところのピアノを習うような感覚で、8歳から舞踊学校に入るのが一般的だ。4歳から始めたカナメさんは、スタートが早かった。デリー在住の日本人から手ほどきを受けた後、8歳で、師匠の舞踊学校の門を叩いた。

舞踊学校では、先生も生徒たちも、カナメさん以外は全員がインド人。レッスンは英語で行われ、少し込み入った話になると、別室で待機している母が通訳した。

日々の練習は反復が続き、とても地味だ。基本姿勢の「アラマンディ」は、両足のかかとをつけたまま膝を180度開いて中腰になる状態で、体幹の強さが求められる。そこから硬軟さまざまなステップを踏んでいくのだ。そしてステップや手の動きだけではなく、目の動きや顔の表情を使った、感情表現も求められた。

また、演目はインドの神話や叙事詩がベースになっており、ストーリーの内容理解が必須となる。曲も複雑だ。インドには紙幣に17カ国語が表記されるほどの多様な言語があり、演目の歌詞も、サンスクリット語やタミル語、ヒンディー語やテルグ語のものがある。それらを覚えることも求められた。