「社内じゃ有名だったけど、本当かなあ、と最初は半信半疑だったんだ」と、商社勤務の50代部長クラスが苦笑したのは、数年前に異動してきた年上の部下に話が及んだときだった。

「でも、実際に目の当たりにしてびっくりしましたよ」――彼でなくともびっくりするその部下の言動は、会議中に出る。

「◇◇がダメだ」「○○も××もできていない」などと、自分の言い分を一方的にまくしたてる。組合活動歴が長いとあってか、声もでかい。出席者は皆、ひとまず黙って聞いている。

言うだけ言うと両腕を組み、目を閉じる。そしてすやすやと寝息の音が……。

「ワーッとしゃべり倒した後は、質問しても、反論しようと呼びかけても一切反応しない。本当に寝ちゃうんだよ」(同)

会社で年輪を重ねると、他のどんなスキルにもまして余計な仕事や責任を「かわす」技が身に付く。要領を覚え、楽なほうに流れ、いちいち考えなくとも体が自然に危機を察知し、するりとかわす。

いかなる職場でも、この道の達人クラスが1人か2人は必ずいる。冒頭の年上部下のように、バレバレでも他人の視線など歯牙にもかけぬ剛の者も。仕事や責任のほうから当人を避けて通るという奥義に達した者もいるが、それは少々上達しすぎであろう。

そうした“達人”たちにとって厄介なのは、責任が生じ、決断が下される場=会議である。そこで彼らは、会議というものをいかに無力化させるかに腐心している(としか思えない)ことが多い。