金融政策は限界を迎えている

人の自由な移動を認めてきたEUでは国境が封鎖され、事実上、EU・ユーロ圏の単一市場が分断されつつある。イタリアやドイツなど欧州各国は自国の限られた資源を生かして当面の経済を支えなければならなくなっている。感染対策から工場は稼働できず、部品の調達も困難となり、経済の屋台骨である自動車生産が停止に追い込まれる国は増えている。

つまり、新型コロナウイルスが発生し人の移動が制限されたことで、世界経済運営の前提条件である、国境をまたいだ効率的な経営資源の再配分が困難になりはじめた。グローバルに需要と供給が混乱し、経済が麻痺しはじめている。モノが作れなければ需要は満たされない。消費が落ち込めば、企業の業績懸念も高まる。

米国では、航空機大手ボーイングの経営が苦しい。同社は737MAXの運航停止から業績が悪化した。そのうえに、新型コロナウイルスの発生による航空機需要の減少が重なり、同社は米国政府に支援を要請した。それはいかに各国の企業が世界各国の需要などと密接にかかわってきたかを確認する良い例だ。

米FRBをはじめとする世界の中央銀行が金融緩和を強化して経済を支えようとしている。ただ、今起きていることは実体経済にかかわることであり、金融市場では時間の経過とともにさらなる影響が顕在化する可能性がある。また世界的な低金利の中、金融政策は限界を迎えており、過度な期待は持ちづらい。

世界経済が混乱に陥る最悪シナリオ

今後の展開を考えるにあたっては、複数のシナリオを準備することが重要だろう。そうすれば想定外の事態に直面した際、パニックになることは避けられる。“備えあれば患いなし”を目指すことと言い換えてよいだろう。

重要な論点は感染の影響が長期化するか否かだ。つまり、感染がいつ収束するかによって、今後の展開にはかなりの影響がある。

比較的短期間で感染が収束するなら、グローバルに景況感が幾分か持ち直す可能性はある。ただ、2018年以来、中国経済は成長の限界を迎えた。米国の景気も減速している。世界全体で急速かつ大きな景気の回復は見込みづらい。今回の新型コロナウイルスが世界経済全体の減速、あるいは停滞懸念を追加的に高める一つの要因との認識を持つべきだ。

一方、感染の長期化で人の移動制限が延長されると、事態がさらに深刻になることは避けられない。企業の業績、信用力などへの懸念は高まり、金融市場の価格発見機能が低下する展開も想定される。すでに世界的に金融政策が限界を迎えつつある中、ユーロ圏などで金融システム不安が発生すれば、世界の実体経済(需要と供給)はかなり混乱するはずだ。