人の移動が活発化して実体経済は促進されたが……
大局的に新型コロナウイルスが世界経済に与える影響を考えると、感染の拡大とともに世界経済を支えてきた“グローバル化”に大きな変化が起きていることがわかるだろう。ポイントは、人の移動が大きく制限されていることだ。
グローバル化とともに、世界全体で人の移動が活発化した。その動線が整備され、各国で消費(需要)、生産(供給)、投資などが促進された。この視点が感染拡大による世界の実体経済と金融市場の混乱を考える基本となるだろう。
世界各国が相互の結びつきを強めたのは、冷戦終結後である。旧社会主義国は市場経済に移行し、多くの国が構造改革を進め海外から経営資源を呼び込もうとした。主要先進国は中国をはじめとする新興国に投資を行う。一方で、新興国は外資を誘致しつつ、インフラ開発を進め、工業化の初期段階を歩んだ。また中国は“世界の工場”としての役割を発揮し、自動車などの一大生産・消費市場として成長を遂げた。
そうして世界各国はより効率的な経営資源の再配分や貿易取引、規制の少ない競争環境などを目指して自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結した。欧州では独仏の利害対立を解消し平和と安定を目指してEUの拡大が重視された。
機能低下した世界的なサプライチェーン網
こうしたグローバル化が冷戦後から今日に至るまでの世界経済を支えている。リーマンショック後、2009年7月から米国経済が景気回復局面に移行し、第2次世界大戦後最長の景気回復を遂げることができたのも、各国の連携によって経済運営の効率性が高まったからだ。
一例として、米国ではアップルがiPhoneなどの組み立てを台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に委託し、自社はブランド開発や先端テクノロジーの創出に注力した。それが需要を創出し、世界全体の景気を支えた。わが国企業にもアップルに部品などを供給して業績拡大を実現したケースが多い。
このようにグローバル化が進み、国境を越えた投資や人の移動、物流が促進されることで、より効率的に付加価値を生み出す体制が世界全体で整備されてきた。その中で、米国を中心に主要中央銀行が低金利環境を重視し、債務に依存した投資、生産、消費が支えられた。
ところが1月以降、中国を中心に新型コロナウイルスの感染が各国に拡大したことで、グローバル経済の運営が大きく乱れている。端的に、グローバル化は正念場をむかえつつあるといえる。
多くの国が感染対策のために人の移動を強く制限しはじめた。国境封鎖をはじめ、海外渡航を禁止する国が増えている。人が移動できなくなると、経済は停滞し、グローバル経済の運営には大きなブレーキがかかる。
米アップルが中国での需要低下、供給混乱から1~3月の業績目標の達成をあきらめたのは良い例だ。韓国のように、輸出によって世界のサプライチェーンに組み込まれてきた国はかなり厳しい状況を迎えている。