目的のためなら手段を選ばぬ下克上ぶりは、「美濃の蝮」と呼ばれて恐れられた。2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」でも本木雅弘演じる悪役風の道三のキャラクターが視聴者の人気を集めている。

経済を活性化しようとした道三

「確かに道三はまったくの善人ではないかもしれませんが、生きるか死ぬかの戦国の世で勝ち残っていくには、こうした厳しさが必要なのでしょう。その一方で、道三は自分の領民たちには慕われていました。優秀な人材であれば出自や血筋にかかわらず取り立て、重要な仕事を任せている。これはまさに今でいう実力主義人事です。さらには、寺社による物品の専売制を廃止し、領民たちが自由に商売できる『楽市楽座』を実現させようとした。これは現代なら規制緩和でしょう。こうして古くからの因習を打ち破り、自由化によって経済を活性化しようとした道三は、素晴らしい改革者でもあったわけです」

広瀬氏は「歴史が面白いのは、1人の人物や1つの出来事について様々な見方ができること」と解釈する。

「例えば明智光秀も、裏切り者というイメージがある一方で、実は多芸多才で医学や芸術にも通じたマルチタレントでもあった。同じように道三という人物も、いろいろな捉え方ができるのが興味深いところです」

子どもの頃から道三の生き方に触れてきた広瀬氏だが、社会人になってからは、その生き方をビジネスや企業活動に重ね合わせることが増えた。

「自分がやりたいことを明確な目標として定め、自分を信じてやり抜く。これが道三の魅力であり、すごさです。自分が社会人になってみてよくわかりましたが、物事をやり抜くのはそう簡単ではない。特に会社組織にいると、どうしても上の人間の意向を忖度することを考えたり、1度はやろうと思ったことでも、周囲から反対されると諦めてしまうこともありますから」

確かに道三のやり抜く力は際立っている。「国主になる」と決めてから、それを実現するまで20年以上。『国盗り物語』では、よそ者である道三が出世していくのを面白く思わない政敵や、「楽市楽座」を阻止しようとする旧勢力から送り込まれた刺客に、たびたび命を狙われる場面が描かれる。これは司馬遼太郎の脚色だとしても、現実も周囲からの反発は相当なものであったことが容易に想像できる。

それでも道三が目標の達成を諦めることはなかった。そんな道三に倣い、広瀬氏もリーダーとして「やり抜く力」を大事にしてきたと振り返る。

斎藤道三の蝮がごとき波乱万丈の生涯