ハーツバーグの流れを組んで、ダニエル・ピンクが編み出した「モチベーション3.0論」。今、日本の職場では、ダニエル・ピンクの論に反する現象が起こっており、それは労働環境の危機につながる、と筆者は説く。

今、気になっていることがある。

複数の調査結果を見ると、働く人のモチベーションの源泉が、ダニエル・ピンクの言ういわゆる3.0レベルから2.0レベルへと回帰しているように思えるのである。別の言い方をすれば、働く人のモチベーションの源泉として、フレデリック・ハーツバーグの考えた、いわゆる衛生要因が挙げられることが多いのである。

ハーツバーグは、1960年代に米国ピッツバーグ市で、多数の働く人にインタビュー調査を行い、「達成」「承認」「仕事そのもの」「責任」「昇進」などがモチベーションを向上させ、「会社の方針と管理」「監督」「監督者との関係」「労働条件」「給与」「同僚との関係」などの欠如や悪化がモチベーションを下げていることを発見したのである。これに基づき、ハーツバーグは、モチベーションを上げる効果のある要因を「動機付け要因」、反対に下げる影響を与える要因を「衛生要因」と呼んだのである。いわゆるモチベーションの二要因理論である。

最近話題に上ることの多い、ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0論」は、ある意味では、ハーツバーグらのこうした議論をさらに発展させたものである。彼は、「モチベーション 1.0」は「生存や安心に基づく動機づけ」、「モチベーション 2.0」は「アメとムチに駆り立てられる動機づけ」だと定義し、内面から湧き出るやる気に基づく「モチベーション3.0」こそが、創造性を要する高度な知的業務に携わる現代の労働者には、重要な「やる気」の源泉だと主張する。

図1 54%の働く動機は「お金」
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図1 54%の働く動機は「お金」

だが、最近、この仮説に反する結果が見られるようになった。例えば、図1を参照してほしい。この結果は、私が参加して、PRESIDENTが、2010年の5月3日号で行った「働きがいのある会社」アンケートの結果であり、「あなたが働くモチベーションは何ですか」という問いに対して、全体で54%が、「給料」だと答えているのである。

サンプルは、働く人2014人。正社員、非正社員などバラエティに富んだ対象サンプルであり、内訳は正社員が78%であり、現在の労働市場の状況をおおよそ反映した対象者である。

逆に、「仕事自体の面白さ」や「自分の成長を実感すること」などの、しばしば真のやる気の源泉だと考えられている要素を挙げた割合は、役員・経営者層を除くと、3割程度である。モチベーション3.0派から見ると、驚くべき内容なのである。仕事の面白さや、成長などではなく、お金によって働くモチベーションを感じる人が、(役員・経営者層を除くと)圧倒的に多い。この事実をどう評価するか。