まるごと戦略の切り込み部隊

パナソニック売上高・営業利益の推移
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パナソニック売上高・営業利益の推移

これまでパナソニックの取材といえば、薄型テレビなどのデジタルAV機器や白物家電など、個別製品の販売や開発、海外展開などに関するものがほとんどだった。ところが、今回は街づくりであり、店舗や工場、家“まるごと2だ。およそ家電メーカーとは思えない話ばかりで、戸惑ってしまった。

冷静に考えてみれば、パナソニックのまるごと戦略は当然といえる。薄型テレビを筆頭に、日本の家電メーカーは次々にアジアの企業にシェアを奪われてきた。最新技術を駆使した製品をつくっても、類似品がたちまち登場し、価格競争に巻き込まれる。それならば、自分たちが持っている製品や技術を活かし、これらをつないでシステムとして販売する。そんな発想が生まれても不思議はない。

実は、野呂氏が本部長を務める部署は、09年4月にできたばかりだ。

AVCネットワークス、冷熱アプライアンスなど、パナソニックグループの事業ドメインを縦串とすれば、野呂氏の部署は横串だ。北米、欧州、アジア、中国、南米など7つの地域で、文教、店舗流通、オフィス・工場、住宅など重点7業界に対して、7つの事業ドメインがまるごと戦略のために連係する。そして、システム・設備事業推進本部は、これにグローバルに営業をかけ、展開をはかる。パナソニックのまるごと戦略の世界展開をはかる切り込み部隊といっていい。

「もちろん単品の販売をやめることはありません。しかし、パソコン同様、薄型テレビなどの家電もコモディティ化しすぎました。いくらリチウムイオン電池や太陽電池が強いといっても、競合メーカーは目の前に迫っているし、並んでいるのです。デバイスと単品だけで勝負して、売り上げが伸びても収益に結びつかない。彼らが真似のできない領域にいかなければならないのです。そこで、家やマンション、店舗やビル、さらには街全体にシステムをまるごとソリューションすれば、まだまだ伸びるはず。これが必要とされる市場があるとのことです」(野呂氏)

パナソニックは家電メーカー。もうそんなイメージを変える時期になったのかもしれない。

(的野弘路、永野一晃=撮影)