「仕事ができる」とは「あの人じゃないとダメだ」ということ

【楠木】いずれにせよ、フィードバックがかかるかどうかという意味では、マッキンゼーのような組織ですら、顧客から直接的なフィードバックがかかることは少ないと思います。一方で、山口さんや僕のような仕事は、比較的フィードバックがかかりやすい。つまり芸者と同じで、向いてなければ需要がない。お座敷がかからない、あるいは、何でお前なんぞがここへ来たんだと言われてしまう。

一橋大学大学院教授の楠木建さん、コンサルタントの山口周さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
一橋大学大学院教授の楠木建さん、コンサルタントの山口周さん

これを裏返して考えれば、仕事ができるということは、世の中から必要とされる、世の中から頼りにされる、あの人じゃないとダメだと思われるということではないかと思うんですね。

【山口】この話って地震のメカニズムとよく似ていて、多くの人は、地震はなるべく起こらないほうがいいと考えるわけですが、実は起こらない期間が長いと、プレートに蓄積される歪の量がどんどん大きくなってくわけです。そしてどこかの時点で、蓄積されたエネルギーがバーンと一気に放出されて大惨事を引き起こす。

【楠木】それをスキルとセンスの議論に置き換えてみると、たとえば、向こうから中国人がやってきたと。僕は中国語を話すスキルがないので、「ニーハオ」と話しかけられると「あっ、俺は返事ができない」といや応なくフィードバックがかかる。もし中国語が仕事にとって必要なスキルであれば、自然に中国語を習得しようというインセンティブが発生する。

「お前センスないね」といわれる機会は非常に少ない

【楠木】一方のセンスは、あるのかないのか自分でもわかりにくいところがあって、なくてもそのままいっちゃう人がいる。おそらく、自分よりセンスのある人から「お前、ここんとこピンとこないよ」とか「なんか外してるんじゃない?」なんて指摘されることでしかフィードバックがかからないと思うわけですが、そういう機会は非常に少ない。もちろん、センスのないやつから「お前センスないね」と言われるほど不愉快なことはないわけですが(笑)。

【山口】下手に指摘をするとパワハラって言われます。

コンサルタントの山口周さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
コンサルタントの山口周さん

【楠木】僕自身も人にそういうことは言いませんね。

【山口】僕は社会学者にはセンスが重要だと思っているのですが、たくさんの社会学者がいる中で、なぜかマックス・ウェーバーはずぬけた存在で、現在でも読み継がれていたりします。あるいはマルクスもそうかもしれませんが、彼らのようにセンスのある学者って、問いの立て方が鋭かったり、解法のアプローチが鮮やかだったりして、著書を読んでいると思わず「そうきたか!」と言いたくなってしまう。『イノベーションのジレンマ』を書いたクリステンセンの切り口の鮮やかさなんかも、まさに「センスがいい」としか言いようがありません。

楠木さんも独特のセンスを持ち味にさまざまな現象を切ってきた人だと思いますが、その一方で、教壇に立たれているビジネススクールは、基本的に、センスではなくてスキルを教えるところですよね。このあたり、ご自分でどう整理されているのですか。