働きやすい環境整備と並んで同社が現在注力しているのが、Care(ケア)、Career(キャリア)、Fair(フェア)の3つである。

「育児休職中の社員を含めて見守るという意味のケア、異動や研修を通じてキャリアを磨き、公正に処遇していくという方針を掲げて、制度の運用を推進している」(宮原参事)

女性管理職を育成するための啓発活動も定期的に開催している。09年2月には管理職以上の女性155人を一堂に集めたフォーラムを開催。同社の前田新造社長と岩田喜美枝副社長自ら講師となって「それぞれ1時間ずつ時間を割いて資生堂として女性管理職の育成に本気で取り組んでいることを訴える」(宮原参事)など女性管理職への期待を表明している。

もちろん、活躍への期待は女性管理職だけではない。同社には前述したように1万2000人の店頭美容職の社員がいるが、09年10月から新たに「キャリア形成プログラム」を導入する。会社として「管理職」や「専門職」への道筋を明確化し、それに向けたキャリア形成を支援するというものだ。当然ながら美容職の社員の経営への参画につなげる狙いもある。

「これまでは店頭美容職の社員はそのままずっと美容職を続けるという風土であった。美容職のキャリアデベロップメントを描き、高度美容専門職のコース、あるいは企画系統のマーケティングをやれるようなコースも選択肢として用意した。企画系統を選択すれば、将来は経営幹部の道も開かれることになる」(宮原参事)

男女に限らず「個」の持つ個性・能力に応じて活躍できる機会を均等に提供することはダイバーシティマネジメントの基本である。資生堂はさらに一歩踏み込んで積極的に育成することで女性の持つ能力をフルに発揮してもらおうという方針である。同社が目標とする女性管理職比率30%はおそらく国内の外資も含めて日本では前人未到の記録となる。日本の企業風土の変容を迫る本格的なダイバーシティ時代の先鞭となることを期待したい。

ダイバーシティ推進を掲げる企業は多いが、その効果は一朝一夕に表れるものではない。中・長期的な企業戦略の中にどのように明確に位置づけるかが重要だ。不況に陥って終息するような施策レベルでは定着することはないだろう。

※すべて雑誌掲載当時

(図版作成=ライヴ・アート)