自分たちしか生息できない海底を作りあげる

陸上の畑にたとえて考えてみましょう。

清家弘治『海底の支配者 底生生物』(中公新書ラクレ)

仮に、毎日のように徹底的に耕されている畑があるとします。このような場所では、何らかの植物の種が運良く芽生えたとしても、地面が頻繁にひっくり返されているため、植物は成長できません。同様に、そのような場所では、昆虫なども生息することは困難でしょう。

海底生態系でそのような影響を及ぼしているのが、オカメブンブクなのです。

実際に、オカメブンブクが多く生息している場所では、彼らによる“耕し”効果によって海底地盤が軟らかくなっています。つまり、彼らは海底の物性そのものを変化させているのです。そしてオカメブンブクが多数生息する場所では、彼ら以外に大型の底生生物はほとんど生息していません。

さらにオカメブンブクによる海底堆積物の撹拌は、海水の化学組成にも影響を与えています。これも身近なケースにたとえて説明しましょう。

お米を研ぐと、お米表面に付着しているヌカや汚れが懸濁して、研ぎ水が白濁するのは皆さんご存じだと思います。それと同じように、海底の砂泥をオカメブンブクが撹拌すると、それによって生じた濁り、つまり泥の中のアンモニアなど様々な物質が、海水中へと放出されます。

海底にはユニークな名前のウニがたくさんいる

こうしてオカメブンブクは海底直上の海水の化学組成までをも変化させ、そしてこのことは他の生物、海底表面に繁茂する微細な藻類などの増殖促進にも繋がっているのです。私が「最強」と呼びたくなるのも理解して頂けるのではないでしょうか。

それにしても、オカメブンブクというのは変わった名前だと思いませんか? その名前は、棘付きの全体形が昔話の「分福茶釜」のタヌキに似ており、また表面の棘を取り去った白色の殻が「オカメ」のお面に似ていることに由来しているようです。

ウニといえば岩礁に生息して棘が長い生き物というイメージが強いかもしれませんが、実際にはオカメブンブクのように海底の砂泥に生息するものが多くいます。そしてそれらの種名には「ハスノハカシパン」、「スカシカシパン」、「ライオンブンブク」のように、とてもユニークなものが多いのがその特徴となっています。

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