ネズミのような小動物にも、お饅頭にも見える「オカメブンブク」

さて、その底生生物にて“最強”と目されるオカメブンブクのサイズは最大でも5センチメートルほど。ガンガゼやムラサキウニなどの一般的なウニに比べると、柔らかめの毛のようなとげに覆われています。ぱっと見、ネズミのような小動物、あるいはお饅頭のようにも見えます。

このオカメブンブク、「最強」といっても凄まじい攻撃力があるわけではなく、また強い毒を持っているわけでもありません。私がオカメブンブクを「最強」と呼んでいるのは、彼らが海底の生態系に及ぼすインパクトが非常に顕著、という事実があるためです。

画像=『海底の支配者 底生生物』

棘を使って這い回る、海底の「かき混ぜ屋」

オカメブンブクをはじめとしたブンブクウニの仲間は、海底の砂や泥の中に埋もれて生活しています。彼らは口から堆積物を飲み込み、その中に含まれる有機物をエサとしています。

地面の中を移動する際には、体中に生えた棘を使います。棘を使って体前方の砂泥を掘り崩し、そして体の別の部位の棘を使って崩した砂泥を体の後方へと運搬します。この一連の棘の動きによって、オカメブンブクは自らが位置する空間を前に移動させ、海底下を自由自在に動き回っています。

海底直下でオカメブンブクが動き回った場合、その這い痕は海底面にも現れます。海底の表面がオカメブンブクの這い痕で覆い尽くされている様子(写真1)から、たくさんの彼らが海底下で蠢いている状況が想像できると思います。

画像=『海底の支配者 底生生物』

なお、オカメブンブクがいない、あるいは少ない場所であれば、海底表面には水の流れでできた、いわゆる「リップルマーク(さざなみ模様)」が発達します。

しかし、オカメブンブクが多数生息している場所では、リップルマークはオカメブンブクの撹拌作用によって破壊されています。オカメブンブクが海底の堆積物を激しく撹拌するので、海底の微地形が改変されているのです。そしてオカメブンブクによる海底堆積物の撹拌作用、これこそが、私が彼らを「かき混ぜ屋」、もしくは「最強の底生生物」と呼んでいる所以ゆえんです。