エストニアはスウェーデンやロシアから長い間、占領されていました。彼らはいつ領土が奪われるかもしれないという危機感がある。だから領土を奪われ、国民がちりぢりになっても国民と国の電子データさえあれば、国家を再建できるという考えから「電子国家」として存続していこうとしている。

私は国民国家とは、ある意味での会員制クラブのようだと考えているんです。会費を払えば、さまざまなサービスを受けられる。日本ではエストニアのような危機感は持ちにくいのはわかりますが、人口が減少し、高齢化が進むいま、国民国家を維持していく上で、ギリギリのところにきている。とくに問題なのが『日本国・不安の研究』で提示した医療・介護です。ここを早く解決しないと日本は取り返しがつかないことになる。

政治家や官僚は改革を実行できるのか

——日本国・不安の研究』には増え続ける医療・介護費を消費者の利益に沿ってどのように削減していくか数々の提案が示されている。政治家や官僚は実行できるのでしょうか。

猪瀬直樹『日本国・不安の研究 「医療・介護産業」のタブーに斬りこむ!』(PHP研究所)

政治家が地元しか見ていないからです。道路公団民営化のときも同じことを感じました。政治家は自分の地元に道路を敷きたい。高速道路が通らなければ、地元が寂れてしまう。地元をないがしろにしたら選挙に勝てない……。その気持ちは分からなくはないのですが、本来、政治家は天下国家を論じるべき存在です。地元だけを見ていると、国家の観点がなくなってしまう。

期待できるとしたら政権ですが、安倍政権は権力を持ったけれど、なにもやらない。権力があり、本気になれば改革できるはずなんですよ。だって、小泉さんは信念を持って郵政民営化をやり遂げたでしょう。

一方、官僚は当局の政策を立案する役割をになう。ただし担当者が2、3年で異動していくから、目先のことしか見ていない。長期で俯瞰する視点を持たず、予算なら前年度比を参考にして考えることしかできない。だから道路にしても、医療にしてもコストだけがどんどんふくらんでしまう。

将来を見通す政治家と実務を行う官僚がうまく補完し合う関係であればいいんだけど、現実はそうなっていない。近い将来、長期的なビジョンを持つ政治家が厚生労働大臣になり、私が書いた処方箋をもとに、医療・介護業界の改革に乗り出してほしいと考えているんです。

(構成=山川 徹)
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