厚底のカーボンファイバープレートは他社も採用している
冒頭で触れた、ワールドアスレチックス(旧国際陸連)がナイキの厚底シューズを「禁止」する可能性についてだが、筆者は、禁止されないことを強く望む。
ワールドアスレチックスは、「使用される靴は不公平な補助、アドバンテージをもたらすものであってはならず、誰にでも比較的入手可能なものでなければならない」という規定を設けている。
ナイキの厚底シューズは高額(「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」の価格は税込3万250円)とはいえ、誰でも「入手可能」だ。
問題は「不公平な補助」かどうかだ。バネの利くカーボンファイバープレートが問題視されそうだが、これと似たような仕組みはナイキの厚底シューズだけでなく、他のメーカーでも採用されている。また短距離用走のスパイクにもカーボンファイバーのソールを使用しているものがある。
なぜ「厚さ」を規制しなければならないのか
となると、どこが問題なのか。
報道によると、ソールの「厚さ」に制限が加えられるのではないかという。今回の箱根駅伝でも大活躍した「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」(2019年7月に一般発売)は、2017年7月に一般発売された初代の厚底シューズである「ズーム ヴェイパーフライ 4%」と比べて、ミッドソールのフロント部分が4mm、ヒール部分が1mm厚い。フォームを全体で15%増量したことで、エネルギーリターン(反発力)を高めている。
昨年10月のシカゴマラソンではブリジット・コスゲイ(ケニア)が従来の女子世界記録(2時間15分25秒)を一気に1分21秒も塗り替える2時間14分04秒で突っ走るなど、厚底シューズの威力は増している印象だ。
さらに、非公認レースだが、昨年10月にウィーンで行われた「INEOS 1.59 Challenge」では世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)が42.195kmを人類史上初の2時間切り、1時間59分40秒で走破した。そのときに彼が履いていたモデルは、市販されているナイキの厚底よりもさらに「厚底」だった。
ナイキは「厚さは速さだ」というキャッチフレーズのもと、ソールの厚さを武器にする新戦略を推し進めてきた。そして、世界のマラソンシーンを変えてきた。記録はグングンと伸びている。
ワールドアスレチックスはすでに出された記録については抹消しないという報道もあるが、ソールの厚さに制限が加えられることになれば、これまでのような記録を期待するのは難しくなるかもしれない。