「政治的にただしい」社会は持続しない

まず、国連の人口予測モデルは以下の3つのデータに基づいています。出生率、移動率、死亡率です。女子教育の普及や、都市化の速度は考慮されていません。両者はある程度相関します。国連は、これらのデータは織り込み済みだとしています。わたしたちは調査の手始めに、ウィーンで(人口統計学者の)ウォルフガング・ルッツにインタヴューをしました。ルッツに予測の骨子を説明してもらったわたしは、唖然とした状態で帰路につきました。彼は女子教育率の改善という、たったひとつの新たな変数を予測に導入しました。それだけで、2100年の世界人口の数字は劇的に小さくなり、80億から90億の間になったのです。

(WIRED『「世界人口が今後30年で減少に転じる」という、常識を覆す「未来予測」の真意』(2019年2月20日)より引用(※太字は筆者による))

女性が高学歴化し、社会進出し、活躍する――だれもが賞賛してやまない「政治的にただしい」メッセージ性を強く放つ、フィンランドの女性首相や女性閣僚をいくら賞賛しようが、しかしそのような「リベラルな社会」は持続しない。子どもが生まれないからだ。子どもが生まれない社会では、いかに立派な思想や道徳であっても継承できない。私たちは不老不死ではない。試験管ベビーもない。電脳化も無理だ。人工子宮もなければ、クローン技術もない。子孫を残して社会を継承するためには、生殖するしかない。

「産めよ増やせよ」とは言えない西欧人

女性の教育を充実させ、もって社会進出を後押しするようなリベラルな思想は、たしかに人権的な観点では「ただしい」ことはいうまでもないが、しかし人口動態の観点からはその限りではない。

生殖に枷をはめたコミュニティは滅びる――本当にたったそれだけのシンプルな解答が、高度に洗練された西欧の英知を蝕み、いままさに倒壊させようとしている。「真のフィンランド人」の支持者たちは、金髪青眼の自分たち西欧人のアイデンティティが、皮肉にも自分たちの思想によって消え去ろうとしていることに気づいた人びとであるかもしれない。

しかしおそらく彼・彼女らには、「産めよ増やせよ」といった前時代的な社会思想を再インストールすることはできない。もし彼らが今後政権を取ることがあったとしても、ドラスティックな社会変革を企てるような力はない。いまの「政治的にただしい社会」よりも多少緩やかに現状を追認する程度の結果しかもたらさないだろう。なぜなら結局は彼らもリベラルな西欧人だからだ。