「会社は株主のもの」と洗脳されています

――そんなベンチャーキャピタリストが「公益資本主義」を打ち出したのはなぜですか。

私は1990年代半ば以降、出資会社を次々に上場していったのですが、公開後に株主になったファンド株主が問題でした。短期的に株価を上げて売り抜けるだけが目的で、会社が持つ潜在的な成長力を長期にわたって支えようとしないのです。たとえば将来の研究開発のため内部留保を積んだら、「そんな金があるなら配当に回せ、自社株を買え」という。これでは中長期のイノベーションはできません。このような資本主義は人類社会に害を与えます。彼ら株主資本主義者は、「会社は株主のもの」と洗脳されています。しかし委任状争奪合戦を繰り返して争っても、負けるのはいつも私です。

そんな理不尽な状況の中で、公益資本主義の概念が出来上がってきたのです。株主資本主義は実体経済を金融経済化し、世界を崩壊させる。利益重視の人にとっても長期的には公益資本主義のほうが大きな利益を得られるのだとはっきり認識してもらうには、資本主義の基幹制度を変えるしかないと思い、00年からは、それまで依頼があっても辞退していた米国や日本、国連などのいろんな公職をうけることにし、公益資本主義の世界的な実現を目指し始めました。

――公益資本主義の定義とは?

公益とは「私たちや私たちの子孫の経済的および精神的な豊かさ」のことを指します。そして会社は社会の公器であって、事業を通じて社会に貢献すべきものです。「社会に貢献」とは、社員、顧客、仕入れ先、地域社会、株主、地球といったすべての「社中」に、会社が生み出した付加価値を分配することです。その分配は持続的に行われなければならず、それを可能にする経営の中長期視点、新事業に挑戦する企業家精神が必要です。

この積み重ねの結果、公益を増進することができます。すると関わる人たちがすべて報われる社会が出現します。社中分配と中長期視点と企業家精神。それが公益資本主義を実践するうえで必要な原則です。大会社同様に中小企業にとっても大切な考え方です。

――その考えの源流は何でしょう?

小さいころから父や祖父に教えられた精神がもとになっていると思います。父はコクヨの技術部門をゼロからつくり上げた人物です。父がいなければいまでもコクヨは中小企業でしょう。子供のころよく会社の工場に連れていかれました。夏場はたいへん暑く、機械油や汗の臭いが立ち込めます。事故防止の掲示板があり、「死亡」はゼロだけど、「ケガ」がいつも1人とか2人とか書いてある。「お父さんの仕事は何?」と聞いたら、「社員に事故が起きないようにすることだよ」というのです。