ある日、工場に行くととても涼しく、ケガの欄が「ゼロ」になっていました。父は、空調機を会社に初めて導入するにあたり、社長室や重役室でなく、真っ先に工場に入れたのです。「会社のために現場で働いてくれる人たちを優先すべき。事故が減れば社員が喜び生産効率も上がる」と考えたそうです。

一方、祖父は富山から大阪に丁稚奉公に出て、明治末にコクヨを創業した人です。祖父は常にコクヨ一社だけでなく社会全体を気にかけていました。「競合相手の会社をつぶすような寡占はいけない、それぞれ持ち味を生かし共存共栄することが大切だ」という信念の持ち主でした。こうして子供のころから公益資本主義を学びました。

トヨタ自動車は公益資本主義の会社だ

――日本の経済界にも公益資本主義の考え方が浸透してきています。

そう思います。長期的な経営戦略で知られる東レの日覺昭廣社長は、随所で公益資本主義の重要性に言及しています。関西経済連合会(関経連)や中部経済連合会、九州経済連合会などが機関決定した「四半期開示の義務付けを廃止すべき」といった意見は公益資本主義そのものですし、関経連の松本正義会長も「私は社会全体の利益を考える公益資本主義に賛成だ」と公言されている。トヨタ自動車の豊田章男社長にも「トヨタ自動車は公益資本主義の会社だ」という発言があります。日本を代表する企業・団体にこうした動きがあるうえ、上場企業の創業者や若手起業家、歴史の長い同族企業経営者など賛同者は多いと思います。

――資本主義を公益資本主義の方向へ変えていくのは日本の責務だと述べていますね。

年々その気持ちが強くなっています。

いま地球上でグローバル企業の力が途方もなく大きくなっています。世界の国の歳入と会社の収入(売上高)を大きい順に国と会社を交ぜて並べると、半世紀前は上位100位の中に企業は3つしか入りませんでしたが、いまは70が企業です。国家以上の影響力を持つグローバル企業群が「会社は株主のもの」という思想で株主利益だけを追求すれば、格差はますます広がり、世界が歪むのは明らかです。株主資本主義の「勝者総取り」の考えは一神教社会の競争思想に根付いており、かつての帝国主義、植民地支配に通じます。

まずは国内で公益資本主義の理念を活用した政策で勤労所得を倍増することから始めたいと思います。そして寿命を全うする最期のときまで、すべての国民が元気で生きることができる世界最初の独立国家にしたいと思います。さらにわれわれ日本人が、公益資本主義を世界中に広め、教育を受けた健康な中間層を地球上のすべての国々でつくる。そんな流れを起こそうではありませんか。

(撮影=永井 浩)
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