腹落ちするまでに2年かかった

そんな西村社長に転機となる出来事が起こる。三菱総合研究所が運営する「ビジネス・アクセラレーション・プログラム」で2019年度のファイナリストに選ばれたのだ。西村社長は、三菱総研のメンター陣からビジネスモデルのブラッシュアップを受けた後、特別賞を受賞した。

「専門家に、業界の全体図を俯瞰しながらビジネスのロードマップを示してもらえたことで、自分の進むべき方向性がハッキリ見えた。投資を受けることもできず、VC好みのビジネスモデルを描くこともできず、このままではダメなのではないかと迷った時期もあったが、今回のアクセラレーションプログラムを受けたことで、ようやく整理がついた」
「今は焦らず、金融機関の融資で資金を調達しながら、着実に漁協の提携数を増やしていくことに注力し、ある程度ビジネスが大きくなってから、VC投資を受けることを検討していきたいと考えている。こんなシンプルなことが腹落ちするまでに、2年もかかった」

個々のビジネスモデルに助言できる専門家が足りない

当然ながら、当センターでも、福井ベンチャーピッチ後から継続して西村社長を伴走支援している。「現状はまだ投資を受ける段階ではなく、ある程度提携先が増えた段階でVC投資を検討してもいいのではないか」というアドバイスも、早い段階から行っていた。しかし結果として、事務局の立場から行うアドバイスだけでは、西村社長のモヤモヤを払拭し、腹落ちさせるほどの納得感を提供することができなかった。

「僕は根っからの中小企業経営者。見通しを立て、順序立ててマイルストーンを置き、確認しながら着実にビジネスを進めていきたいタイプ。僕のように、地方のビジネススタイルに慣れている地方発ベンチャーが全国に打って出る場合は、自分のビジネスの現状を俯瞰し、ロードマップを確認しながら、頭を切り替えていく準備期間が必要だ」

“地方発ベンチャー”とひとくくりに言っても、ITを活用した若いスタートアップもいれば、フィッシュパスのような地域の課題解決型ベンチャーもいる。既存事業の延長線で新事業展開を目指す後継ぎベンチャーもいれば、これまで培った経験やスキルを生かして新しいビジネスを立ち上げる創業者もいる。そのビジネスモデルの内容は多種多様だ。一方、地方では、その多種多様なビジネスモデルにそれぞれフィットした専門知識をもつ支援人材の陣容が、都会ほどはまだ充実していない。

ベンチャーピッチという場を作り、VC投資は呼び込めても、ビジネスを加速させる段階で、経験豊富な専門家からじっくりとアドバイスを受けられる機会が不足しているという現状こそが、地方のベンチャーが感じている「格差」なのかもしれない。