VCとの面談で、どんどん自信を失っていった
フィッシュパスが、当センター主催のピッチイベント「福井ベンチャーピッチ」に登壇したのは、2017年10月。福井ベンチャーピッチ立ち上げ当初の、第1回開催時だ。当時はまだ、提携漁協数が3漁協と市場進出はまだまだこれからの状況であったが、その将来性が高く評価され、複数のVCから一気に声がかかった。
しかし、多数のVCとの面談を繰り返していくうちに、どんどん自信を失っていったとフィッシュパスの西村成弘社長は振り返る。
「当時は、全国的に販路を拡大して急成長するためには、VC投資を受ける必要があると思い込んでいたので、VCから声がかかる度に何かあるのではないかと期待した。しかし、どのVCと面談しても具体的には話が進展せず、成果が得られないままモヤモヤだけが募っていった」
「今になって冷静に振り返ると、まだ投資段階ではないものの、将来性を感じるビジネスモデルなのでしばらく様子見しようと判断されたのだと理解できる。しかし、当時は心の余裕が全くなかった。『今のビジネスモデルのままではVCに関心をもたれない。VC好みの成長ビジョンを思い切って描く必要があるのではないか』と焦る一方で、とはいえ、無理せず着実にやりたいという想いも強く、頭の中が混乱していた」
ピッチイベントに出るたびに、ショックを受けた
西村社長はもともと、福井県内で飲食店を5店舗経営する中小企業の社長だ。26歳で創業し、飲食店ビジネスが軌道に乗りはじめたことを契機に、ずっとやりたかった新事業に41歳で挑戦した。
金融機関から融資を受け、借りたお金をコツコツと返済しながら着実にビジネスを大きくすることが当たり前の生活を送っていた西村社長にとって、多額のVC投資を受けることを前提に大きな成長ビジョンを描くことは、相当な重圧だった。
「都会のピッチイベントで知り合った、ひと回りも二回りも年下の若いベンチャーが、『数億円投資してもらった』『ダメになったら返さなくていいお金だから』とカジュアルに話している様子を目の当たりにし、ショックを受けた。ビジネスを考える大きさも、必要な資金も、スケールの桁がまるで違う。自分がこれまで生きてきた環境とはまるで違う世界なのだと痛感した」
フィッシュパスのビジネスモデルは全国的に話題を呼び、西村社長のもとには多方面から声がかかり、誘いを受けたピッチイベントには積極的に登壇した。
しかしそうやって、たくさんの人に会い、それぞれの立場からいろいろなことを言われるうちに、「いったい何が正しくて自分はどこに進めばいいのかがわからなくなっていった」と振り返る。