銀行融資が主流、着実成長を望む地方ベンチャー

私が所属する「公益財団法人ふくい産業支援センター」は、県内の中小企業支援を担う福井県の関連団体だ。私は、開業社会保険労務士を経て、2015年4月に入職した。現在は、創業・ベンチャー支援事業を担当し、福井ベンチャーピッチなどのピッチイベントを企画・運営するなど、県内のベンチャー企業支援に取り組んでいる。

都会ではベンチャー投資が盛んだ。急成長するスタートアップが次々と誕生し、ベンチャー企業ネットワークが積極的に構築され、エンジェル投資も活発だと聞く。

一方、地方はどうだろうか。銀行融資が主流で、着実成長を望む企業が大半だ。もちろんそれは、地方経済の発展を支える大切な価値観なのだが、今求められている「地方発ベンチャー」の創出に必要なことは、リスクをとってでも成長を求める会社が生まれる環境を地方でもつくることだ。同時に、地域の公的機関がどうやってベンチャー支援に取り組むべきなのかが、今問われている。

漁協の経営不振を救うアプリを開発

2016年10月に創業した、フィッシュパスという企業がある。地方の課題解決型ビジネスモデルを手掛ける福井のベンチャー企業だ。

日本の河川は全国830の漁業協同組合によって管理されているが、経営不振により、内水面漁協(※)の多くが苦境に立たされている。経営不振の理由の一つが、「遊漁券」の未購入問題だ。しかし釣り人は、何も最初から無許可で釣りをしようと思っているわけではない。遊漁券を購入できる場所や購入できる時間帯に制限があるため、遊漁券を買いたくても買えず、結果的に遊漁券の売り上げが落ちている。

※全国内水面漁業協同組合連合会。内水面とは、河川や湖沼など、陸に囲まれる水面を指す。

そこでフィッシュパスは、24時間いつでも遊漁券が購入できるスマートフォン・タブレット端末向けのアプリ「FISH PASS」を開発し、2017年6月に提供を開始した。アプリ経由の購入であっても、販売はあくまで地元販売店であり、既存の販売店の売り上げとなる。FISH PASSと提携しアプリを導入した内水面漁協の1つは、遊漁券の売り上げが前年比1.5倍に増加した。

さらには「FISH PASS」は、GPSを使ってアプリを利用している釣り人の位置情報を得ることで、漁場の監視業務や河川整備の効率化も実現した。安全面では、損保ジャパン日本興亜と提携し、釣り人向け保険である「フィッシュパス保険」も提供している。

画像提供=フィッシュパス
スマホから遊漁券を購入できるアプリを開発した