アメリカは外に“敵を”つくることで発展してきた

――北朝鮮の危機が手遅れになる前に手を打つにはどうしたらいいか。しかし、米国、中国の2大国は、その危機に対応できないと予測する。

アメリカはグローバル戦争勃発のリスクをさらしています。そして、アメリカがその予防策を講じることも少なくなっています。アメリカの孤立主義のスタートを切ったのはトランプ氏ではありません。オバマ大統領です。

「東京会議」に登壇したジャック・アタリ氏(写真提供=日本アカデメイア)

アメリカは長い間、敵がいないと国内を整えることができなかった。敵がいることで巨大な軍事費用を出すことができたのです。アメリカはいろいろな敵のバランスを取ってきました。インディアンだけではなくて、後になって、いろいろな敵が出てきました。しかしソ連が崩壊すると、アメリカはどうしていいか分からなくなりました。ロシアは旧ソ連だから敵なのか、どの国は敵なのかということになりました。

ところが、そこにテロリズムが敵として出てきました。そこでアメリカはテロリストを代理敵として戦争に行くことになりました。

しかしながら、その後、それだけでは十分でないから別の敵が必要であると分かりました。ですから、大統領の政権ごとに新しい敵を考えました。それが中国なのか、まだ最終決定は出ていません。中国の方がロシアよりも敵なのか、決められていません。

中国にはまだ戦争する余裕がない

――世界の紛争に対応できなくなってきたアメリカ。一方、中国はどうなのか。

中国はアメリカの敵であり続けるかどうか。私は、1972年、ものすごく若い教授のとき、初めて中国に行きました。それだけ中国を知っている人間のつもりです。その立場で言うと、中国は自分たちが敵として思われたくないのです。彼らは非常に賢い人たちであり、自分たちが脆弱ぜいじゃくだということは分かっています。人口動態的にもお金持ちになる前に高齢化のリスクがあるということを知っています。そして、まだ発展途上の部分もあります。

日本はリッチになってから高齢化しました。フランスも同じです。アフリカはどうでしょう。まだ全然、お金持ちにはなっていません。中国はリッチになる前に高齢化したくないのです。ですから、彼らはこれから戦争などできるわけがありません。お金持ちになってから初めて、それができるということです。

それ以外にも困難性はたくさんあります。水、インフラ、公害、人権など、いろいろあります。中国はその真っただ中にあります。ですから、中国はいろいろなところに出ていく余裕がないのです。