着服事件も決算の不適切会計も解明されていない
11月21日に朝日新聞がスクープを放った。JDIの元経理担当幹部が約4年間にわたって不正経理を繰り返し、2018年12月に懲戒解雇されていたという内容だ。不正に入手した収入印紙を換金するなどの手口を使い、総額約5億7800万円を着服していたという。
JDIは2019年8月に業務上横領容疑でこの元経理担当幹部を警視庁に刑事告訴していたが、朝日新聞が報道するまでその事実を公表しなかった。ところが事実が明るみに出ると態度を一変させ、11月27日に着服をした元経理担当幹部が告発をしている事実を公にした。告発内容は「JDIは過年度決算で不適切会計をしている。当時の経営陣から指示があった」というものだった。
この発表があった日、元経理担当幹部が東京都新宿区のホテルの一室で倒れているのが発見され、その後死亡が確認された。「死んでお詫びします」というメッセージが残されており、警視庁は自殺を図ったとみている。
告発を受けてJDIは12月2日に特別調査委員会を立ち上げた。元経理担当幹部が指摘した不適切会計なるものが本当にあったのかどうかを確認するためである。
その結果が出ていない。にもかかわらず、いちごアセットは支援の用意があると発表している。調査結果が出ていないのにファンドが支援を発表するということは、亡くなった元経理担当幹部の告発はでっち上げなのか、それとも当事者が「事実だが死人に口なしで、蓋をすることができる」と踏んでいることが推察できる。
どちらが正しいのか決して予断を持っているわけではない。しかし、一つだけはっきりしていることがある。JDIのかなり強引な発表はJDIの意思だけではできないということだ。監督官庁であり、その設立から現在に至るまで深く関与している経産省がゴーサインを出さなければ、こんな記者会見を開くことはできない。
経営難に拍車をかけた2つの「致命的なミス」
JDIは経産省が主導し、2012年に日立製作所と東芝、ソニーの中小型液晶事業が統合して誕生した。当時、産業革新機構が2000億円を出資したが、それはもともと日本が実用化にメドをつけたものの、その後、台湾や韓国、中国勢に席巻されつつあった液晶パネルの分野で「日の丸」を守るためだった。
3社の事業を統合したこともあり、JDIはいきなりスマートフォン向け液晶パネル分野で世界最大手となったが、わが世の春は長続きしなかった。テレビ向けの液晶パネルで日本勢を駆逐した台韓中勢が、資金力を背景にスマホの分野にも進出してきたからだ。
そんな最中の2015年、JDIは致命的なミスを犯した。すでに台韓中勢の優位性が目立つ中で1700億円もの巨費を投じて、新工場を建設することを決めた。