JDIのトップを巡っては、その前にもいい加減な人事が起きている。本間氏の前の社長だった大塚周一氏は、今はなき半導体メーカー、エルピーダメモリのCOO(最高執行責任者)を務めていた人物だ。本間氏が「電池屋」なら大塚氏は「半導体屋」である。

案の定というべきか、大塚時代にJDIは一年間で三度の業績下方修正をしている。「振幅が激しいスマホ向け液晶のビジネスについていけなくなった」というのが専らの評価だ。

経産省がこうしたトップ人事を繰り返したのは、革新機構でJDI設立に深く関与した谷山浩一郎氏がいたからだろう。旧日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行、投資ファンドのカーライルグループを経て革新機構入りし、その後、JDIの社外取締役に就いた人物で、「影の社長」と呼ばれた。「経産省にしてみれば、谷山氏がいるのであれば、トップは誰でもいいと考えていたのではないか」とJDIのOBは振り返る。

次世代産業を育成するための金が運転資金に回されている

実際、2016年に革新機構が経営難に陥っていたシャープへの出資を名乗り出た時に、JDIとの統合を画策し、当時のシャープ経営陣に買収案をプレゼンしたのは谷山氏。その年の終わりに資金繰りに窮したJDIに革新機構から750億円を追加出資させたのも谷山氏だ。

この750億円の追加出資は今でも語り草になっている。革新機構は次世代産業の育成を目的として設立されたファンドという建前があった。JDIの救済目的でカネを出すわけにはいかない。

そこでソニーとパナソニックが有機EL事業を切り出して設立、その際に革新機構が発行済み株式の75%を出資したJOLED(ジェイオーレッド)をJDIが買収するための資金として拠出させている。その後、JDIによるJOLEDの買収は実現しておらず、750億円は恐らくJDIの運転資金に回されたのだろう。

谷山氏と本間氏は2017年6月末でJDIを退任。本間氏の後任に就いた東入来信博氏は2019年3月、過労で緊急入院したため、月崎義幸氏がワンポイントリリーフを務め、現在の菊岡氏がJDIのトップに就いた。

経営破綻すれば経産省の責任を問う声が強まる

これほどまでに経営トップがコロコロと替わる中で、今日の苦境を招く大きな原因となった白山工場の操業は7月に無期限停止となり、1200人の希望退職も募られた。業績は19年3月期まで5期連続の最終赤字で主要取引先のアップルは有機ELパネルの採用に傾いている。

12年に設立して以来、失敗続きで、今後の展望も開けないJDI。経産省は同社にこれまで4000億円を超える血税を投入している。14年2月に上場を果たした際のJDIの公募価格は900円。国は約700億円の売却益を得たが、足元の株価は70円台をウロウロ。そんなJDIが経営破綻すれば、経産省の責任を問う声はさらに強まる。

いちごアセットは、明らかな産業政策の失敗の尻拭いに名乗りを上げていることになるが、単なる善人ではあるまい。経産省との間に何か密約がある。そう考えるのが普通だろう。

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