削るだけでなく成長を考える

広範なカテゴリーに及ぶコスト削減策は、実はきわめて基本的なことから成り立っている。たとえば無駄と重複をなくす、ベスト・プラクティスを実践する、効果が期待できるところに技術を導入する、IT化によってバーチャル・オペレーションを生み出すなどだ。これらに加え、往々にして見落とされがちなコスト削減策がある。それは、社員が仕事のやり方を変えることを支援することだ。

人間的側面は、定量化も管理も難しいことから、大半のコスト削減の試みの中で優先順位が低くなる。これは間違いだ。40年以上前に大きな影響を及ぼした著作『企業の人間的側面』でのダグラス・マグレガーの議論は、今なお意味を持つ。適切な動機があれば、ほとんどの社員は持って生まれた問題解決能力をより発揮し、効率的に働くことができる。こうした動機づけが明確なコスト削減の要素と組み合わされば、組織のコスト削減に大きな可能性をもたらす。従業員の効率性を65%から70%に引き上げることができれば、その会社の生産性は5%アップする。コスト抑制への影響は多大だ。

しかし、成長戦略を定める前にコスト削減キャンペーンを始めてはならない。それは、オープンカーの屋根をはずしたまま洗車に出すようなものだ。いくつかの問題は解決できるかもしれないが、さらに多くの問題が生じる可能性がある。明確な成長戦略を持たない企業は、戦略的意図なしに手当たり次第のコスト削減に走る。これではビジネスはひとたまりもない。会社の商品構成とサービスのためのインフラに、取り返しのつかないほどの打撃を与えるだろう。

さらに、成長の望みもないのに社員に大規模なコスト削減努力を迫ってつらい思いをさせるのは、酷である。コスト削減が求められるような急を要する事態とはどのような状況のことか? コスト抑制をどのように活用して成功への弾みをつけるのか? 経営トップは、問題に取り組むのだという総意を生み出すために、コスト削減の理由を明確にし、それを繰り返し伝えることが必要である。