ケーブルテレビ事業部の朝礼(マンデー・モーニング・メッセージ)は火曜日の午後5時に行われた。部員の3分の2がグループ会社(ジュピターテレコム、JCOM)に出向しているので、彼らの都合を考え、毎週その時間に開催している。
部長の御子神大介は出席者を会議室に集め、座らせると穏やかな調子で語り始めた。
「えー、始めます。まず、前置き。私は釣りが趣味なんですが、あっ、みなさんとっくにご存じですね(笑)。すみません。実はJCOMが釣りチャンネルに力を入れてくれることになり、これは非常に嬉しい話でして……」
こんな和やかな調子で始まる。本題に入ってからも、雰囲気は変わらない。社長のメッセージを伝えた後、御子神が自らの近況を語った。説教臭はない。そして、その後は部員の様子を尋ねるだけ。住友商事の朝礼は部長が一方的にスピーチをするものと聞いていたが、実際には部員たちの意見を吸収する役割もあるようだ。
「朝礼では、聴くことを重要視しています。私が喋るのは最低限にして、あとはお互い何をやっているかを教えあう。お恥ずかしい話ですが、朝礼を始めるまで、新入社員は出向している先輩の顔がわからなかった。それではビジネスの用事を頼もうと思っても、うまくいきません」
メールがビジネスコミュニケーションの主要ツールとなってから、どこの企業でも顔を合わせて話をする機会は減りつつあるのではないか。御子神の話を聞いていると、朝礼の意義とは中身のよし悪しより、まず社員同士が顔を合わせて話をすることにあるようだ。
そんな御子神が朝礼で意識していることがある。
「訓示や説教はしません。部員たちが喋りやすい雰囲気をつくることを心がけています」
(尾関裕士=撮影)