感動の共有が熱狂に変わる

企業と顧客が直接コミュニケーションする機会が増えてきたとはいえ、まだまだ「自分たちの商品のファンに直接会ったことがないという企業がとても多い」と高橋さんは言う。実際にファンイベントなどで自社製品を愛用してくださっているお客様を前にしても、「失礼があってはいけない」「何を聞かれるかわからない」としり込みしてしまう担当者も少なくない。

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顧客との距離の縮め方が絶妙、と高橋さんが注目しているのは、前述のヤッホーブルーイングだ。顧客との「密着プレー」によって、太く長く続く関係を深めている。その象徴ともいえるのが「よなよなエールの超宴(ちょう・うたげ)」というイベントだ。

北軽井沢のキャンプ場やお台場などで開催される大規模なミートアップで、今では数千人単位のファンが参加する。毎回、アイドルのコンサート並みのチケット争奪戦が起こっているほど大人気だ。

「まるでロックフェスみたいなんです」と、高橋さん。会場にはライブ演奏やワークショップなど数多くの企画が用意されていて知らない人同士が一緒に笑い合ったり仲良くなったりして楽しいひとときを共有する。

乾杯の際には、スタッフが配りはじめたビールを特に指示されたわけでもないのに参加者たちが自然に協力し合って会場に行きわたるように手わたしていく。

高橋遼『熱狂顧客戦略』(翔泳社)

「自分たちはお客様だという感覚じゃないんですね。一緒にこの宴を盛り上げていくんだ、みんなで幸せな場をつくっていくんだという想いがあふれていました」

なぜここまで熱量の高い場が生み出せるのか。高橋さんは「作り手自身が自分たちのファンに直接会って、一緒の体験を楽しむことに徹しているから」だと考えている。「呼びたい人」の設定が明確であること。「自分こそが呼ばれている」とファンが自信を持てること。

それらがカチッとうまくはまったとき、共に過ごす一瞬一瞬が幸せな思い出になる。その思い出を積み重ねていくことで、また少し好きになる。熱狂という名の幸せな奇跡が起こるのだろう。

高橋遼(たかはし・りょう)
トライバルメディアハウス チーフコミュニケーションデザイナー
1983年鳥取県生まれ。慶應義塾大学卒業。広告会社を経て、2010年トライバルメディアハウスに入社。チーフコミュニケーションデザイナーとして企業のマーケティング戦略やプロモーションプランニングに携わる。これまで大手航空会社やファッションメーカー、スポーツメーカー、化粧品メーカー、飲料メーカーなどのマーケティング戦略構築やプロモーションプランニングを担当。著書に『熱狂顧客戦略』(翔泳社)がある。
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