「人とは違う車に乗りたい」金持ちをくすぐった
しかも、クアトロは量産車では世界初のフルタイム四輪駆動だった。レオーネは市街地の道路はFFで走り、悪路は四輪駆動にして走る。ところがクアトロはどこでも四輪駆動だ。
それまでのジープが農耕馬のような車だとしたら、クアトロはでこぼこ道や雪の道も疾走できるサラブレッドというイメージだったのである。
クアトロという新しい定義の車に真っ先に反応したのは欧米の富裕層だった。それまで富裕層が買う車といえば、ロールス・ロイス、ベントレー、メルセデスといった車か、もしくはフェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニなどの高級スポーツカーだった。
ところがクアトロはそのどちらでもない、新しいジャンルの富裕層向け乗用車だった。ロールス・ロイスでもなく、フェラーリでもないという金持ちが「人とは違う車に乗りたい」と思った時の選択肢となったのである。
90年代のスキーブームで人気に火がつく
クアトロは話題となり、日本でも顧客を獲得した。
そこで富士重工自体は認めてはいないけれど、同社のマーケッターは「クアトロが欲しいけれど、手が届かない」という人々を狙えばいいと考えたのではないだろうか。
レオーネ4WDはFFと四輪駆動をレバーで替える方式だったのをフルタイムの4WDとして発売した。そして、狙い通り、営業成績も上がっていった。これまでは業務用しか売れなかったのが、アウトドア志向でゆとりのある層が買うようになったのである。
また、レオーネ4WDにとって追い風となったのはスキー人口の増加である。1982年に600万人だったスキー、スノーボード人口はピークの98年には1800万人にまで増加している。
苗場、赤倉といったおしゃれなスキーリゾートを目指す人間にとって、最大のあこがれはアウディのクアトロに乗って出かけていくことだったが、レオーネの四輪駆動はクアトロに次いで、スキーリゾートに似合う車だったのである。
この後、富士重工の車はレガシィ、インプレッサ、フォレスターなどと進化していくが、いくつかの車種にはフルタイムの四輪駆動が付加された。
同社の人間にとって、フルタイム四輪駆動は「水平対向エンジン」と並ぶ技術の成果にすぎない。
だが、一般のユーザーにとっては、水平対向エンジンよりも、フルタイム四輪駆動がスバルにおける魅力的な個性だった。今では同業他社も四輪駆動の車を出しているが、86年当時はアウディと富士重工くらいしか選択肢がなかった。
幸運なことにレオーネの四駆はアウディのイメージに引っ張られて売れていった。
そして、クアトロ以降、現在に至るまである種のユーザーの好みは乗用車からSUV(スポーツ用多目的車)、それも四輪駆動車へとシフトしていると言っていい。