日比野が掲げる目標は、「強靭な経営基盤の確立」と「アジアを代表する証券グループになる」だ。

アジアでは香港の陣容を強化して第2本社化した。「どこかでかいところとがっぷり組んで、アジアをやるかといえば、当面それはない」と自前主義で臨む。

経営基盤の強化では、収支合計で約1000億円の改善を目指す。内訳は増収で600億円、経費削減で400億円。コスト削減に向け、12年4月には持ち株会社傘下の大和証券と大和証券CMを合併することを決めた。

増収の軸は安定収益の積み上げだ。証券ビジネスは、株式の委託手数料にしろ、株式や社債の引受手数料にしろ、一回こっきりの狩猟商売。市況変動の影響を大きく受ける。対して投資信託などは、残高に応じて手数料が増えるストックビジネスで狩猟商売に比べれば安定している。

重点商品は株式投信だ。前3月末の残高4.1兆円を6兆円規模にまで増やす計画である。そして新兵器がなんと預金。この5月に営業を開始した大和ネクスト銀行が、その中核をになう。ネット銀行ならではのローコスト運営と、大和証券の120店舗が銀行代理店として機能することで急拡大を目指す。

「(預金残高)3兆円にはそんなに時間をかけなくても、いくと思っています」

銀行にかける思いは熱い。「もう本当に、銀行はずっと欲しかった。これでフルラインアップの商品が提供できる」。銀行もバブル崩壊であれだけ評判を落としたにもかかわらず、日本ではなお、信用・信頼という点で証券を上回る。日比野は経営の中枢に長くいただけに、その事実を冷徹に理解しているに違いない。

大和は「野村の背中はまだはるかに遠い」と揶揄されるのが常。加えて、三大メガバンク系の証券会社との競争も激しさを増す。しかし、他との比較で一喜一憂するのは、2番手の悲哀でしかない。

「社会に尊重され、必要不可欠といってもらえるような金融グループになる」

苦い思い、危機的な状況も乗り越えて、日比野がたどり着いたこの願いを、社員といかに強烈に共有するか。「独立自尊」の追求こそが、民族系独立系証券を奮い立たせるはずである。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)