慢性的に抱える渋滞問題の深刻さ

近年リモートワークや時差通勤など、働き方改革が進むIT企業だが、楽天はその中でも割合に保守的な企業と言える。朝9時という業界では比較的早い出社時刻に加え、週に1回は全社員参加の朝会がある。この朝会こそが慢性的に抱える渋滞問題の深刻さを物語っている。前出の元社員は続ける。

「朝8時にスタートするので、7時45分に会社に着いていなければ間に合いません。始業時刻ではありませんが、実質的に朝会の出席は義務。そのため全社員が一堂に会するので、月曜からひどい渋滞になります」

朝会が終わると、社員たちはそれぞれのフロアに戻り、通常業務に取り掛かる。だが……。

「すぐに業務に取りかかりたいのですが、エレベーターが混み合うので、時間を分けて誘導されます。ひどいときは自分のデスクに戻るのに20分かかることもあります。地獄のようです」

こうした慢性的なエレベーター渋滞すらも“勤務時間”に該当しないならば、楽天社員は実質的にエレベーター渋滞を考慮して15分以上前にビルに到着しなくてはならない。「ビルの渋滞問題を解決しないのは法的責任を問われる可能性がある」と指摘するのは、城南中央法律事務所の野澤隆弁護士だ。

「現行の労働基準法ないし判例の傾向では、エレベーター前での待機時間は労働時間として認められない可能性が高いのですが、慢性的な渋滞ですので(内部外部を問わず)労働組合による労働環境改善の交渉に一定の正当性が認められるでしょう。賃貸借契約では『通常の使用に耐えうる物』を提供する義務が所有権者(賃貸人)側にあるのですから、実質的に自社ビルを有する者に対しエレベーター(物)を5~10分程度待てば使えるよう要求することは可能かもしれません。

また、楽天社員はビルに入った時点でエレベーターを待つことしかできず、これは事実上会社に自分が拘束されている状態ともいえます。ある警備会社での深夜の警備員の仮眠時間を労働時間として認めた判例もあります。とはいえ、現行の労働安全衛生法などは工場労働者等を想定した規定が多く、IT企業などで勤務する労働者にとって利用できるものがあまりありません。結局、働き方改革の一環として補助金・税の減免・罰則といった思い切った政策を打ち出さない限り、ビルのオーナーおよび経営者側はなかなか動かないでしょう」

本件について楽天本社広報部に質問状を送ったところ、エレベーター渋滞には「様々な対策を講じています」というものの、出社までの時間については「通勤時間とみなし、勤務時間には該当しません」との回答だった。

19年「ファッションウィーク東京」の冠スポンサーとなった楽天。同イベントで三木谷浩史社長が自らベストドレッサー賞を受賞した(2度目)。社長ではなく、楽天の社員が日の目を見る日は来るのか。

(写真=AFLO)
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