「大きな骨は大腿骨」「喉仏が座禅している仏様のように見えます」

拾骨の一般的な手順を紹介しよう。まず先に喉仏だけを脇に寄せて他の骨と混じらないように配慮し、足元から順に拾い、骨壷に納めていく。その際、遺族ふたりが向かい合って2本の箸で一緒に遺骨を拾っていく地域と、個別に拾っていく地域とがある。

この時、職員が「ひときわ大きな骨は大腿骨です」「第二頸椎、いわゆる喉仏が綺麗きれいに残っていますね。座禅している仏様のように見えます」などと説明してくれることが多い。最後に喉仏を納め、その上に頭蓋骨で“ふた”をして骨揚げが終了する。

何度も葬式を経験している人にとっては、「そんなものかな」と深く考えることはないかもしれない。しかし、拾骨に慣れていない人は、あたかも医学教室のような光景に驚き、中には「滅多めったにない機会だ」と感心したり、中には投書のように違和感を覚える人もいたりする。

骨の部位の説明は「丁寧に拾骨している」意思表示

火葬場は全国に1400施設ほどあり、その多くが地方自治体によって運営されている。「人体解説」は職員の義務ではないが、ほとんどの火葬場では「サービス」として実施しているようである。

撮影=鵜飼 秀徳
ある火葬場のメインホール

葬送事情に詳しく、『火葬後拾骨の東と西』(日本葬送文化学会、2007年)の著者のひとりである二村祐輔さんにも話を聞いた。

「地方都市では、戦後しばらくまで野焼きをしているところがありました。野焼きが済んだ後は、骨はバラバラの状態です。現在のように、ストレッチャーの上で美しく骨を残した状態で骨揚げする習慣は、そんなに古くはありません。火葬場の職員が、丁寧に拾骨している意思表示として、骨の部位の説明がどことなく始まり、それが全国の火葬場に波及していったのでしょう。東京では民間の火葬場が多いですが、喉仏の解説には特にこだわる傾向があるように思います」