【法廷の迷セリフ6】
「たしかに逆方向に歩きましたが、気持ちとしては届けるつもりでした」
弁明というものは、それが言い訳に聞こえた時点で、聞くものにいい印象を与えなくなる。
追い詰められれば、人は強引な自己弁護をしかねない。そのことはみんなが知っているだけに、疑いの目で見られてしまう。
拙書『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか ビジネスマン裁判傍聴記』でも実例を挙げたが、その中から「いくらなんでも」と法廷をあきれさせた例を紹介しておこう。
被告人は、犯行の一部始終を見ていた警察官に職務質問され捕まったというのに、自転車カゴからバッグを盗んだ容疑を否認。そのときの言い訳がこれだった。これを受け、被告人の代理人として発言せざるを得ない弁護人も謎の弁明を重ねる。
「被告人の行動は怪しいかもしれませんが、大きく迂回しながら交番に向かおうとしていたにすぎず、無罪です」
大きく迂回って……。傍聴席から失笑が漏れたほど不自然な言い訳で、こんな主張が通るはずもなく、あっさり有罪判決が下った。
なんだか締まりのない迷言集になってしまったが、どこかの国の政治の世界では、これらに勝るとも劣らない低レベルの言い訳やごまかしが日夜繰り広げられている。コントみたいなやり取りは、そんな屁理屈を決して許さない裁判長がいる法廷だけにしてほしい。