16歳の兵士は、たばこをうれしそうに受け取った
たばこを求めてきたので、鉄条網越しに1本手渡し、声をかけた。
——何歳ですか。
「16歳です」
——少しやせているように見えますが。
「(苦笑いしながら)毎日鍛えているからですよ」
——こちらでの食糧事情はどうですか。
「最近はだいぶ良くなってきました」
——1日何食ですか。
「2食と決まっています」
——日本から来ました。日本についてはどのような印象を持っていますか。
「(しばらく無言で)ちょっとわかりません。そろそろ持ち場に帰らないといけないので」
立ち去ろうとする兵士に、案内役の知人がたばこ1箱を渡すと、うれしそうに受け取って、足早に監視小屋の方に戻って行った。その笑顔は兵士というよりは、あどけない少年そのものだった。
「以前は、中国との国境近くには背の高い屈強な兵士を配置していたんだ。それが今ではああいう少年兵が増えた。兵士たちがダムやビルの建設にかり出されて、こちらまで回す余裕がないのだろう」
“人間サファリツアー”をする観光客
さらに知人は続ける。
「最近、中国人や韓国人の団体がこのあたりまで来て、鉄条網越しに缶詰やインスタント食品を投げて、北朝鮮の農民たちが拾いに来るのを楽しんでいる。『人間サファリツアー』とか呼んでいる連中もいるんだ」
知人は怒りを抑えるように説明してくれた。同じ民族であり親族を北朝鮮内に残している状況を考えると、彼らが見せ物のような扱いを受けていることが許せないのだろう。
やるせない思いを抱えたまま、再び船に乗り、戦時中に日本が建設した中国と北朝鮮を結ぶ「中朝友誼橋」を目指した。
全長946メートルで鉄道と道路が並行している。金正日が訪中する際に特別列車がこの橋沿いを通る。橋のすぐ隣には半壊された「断橋」が見える。1950年に始まった朝鮮戦争で、北朝鮮を軍事支援していた中国との補給路を断つため米軍が爆撃したものだ。
残された橋げたの向こうの北朝鮮側には、不釣り合いな観覧車が見えた。川べりには遊園地のほか、ホテルや集合住宅なども見える。