「賛成か、徹底抗戦か」の岐路に立たされ

小池さんは、会場変更についての賛成者の声を汲んで変更に賛成するか、それとも反対者の声を汲んで徹底抗戦するか、重大な政治判断の岐路に立たされた。

小池さんも都庁内で色々と検討したらしい。都民を代表する立場なら、会場変更は絶対反対となる。だからIOCとどこまでケンカができるか検討したようだが、結局は、IOCと東京都の契約において、IOCに会場変更の絶対的権限があることを法律の専門家から指摘されてケンカを断念したという。

ただ、小池さんは会場変更の意思決定に自分が完全に外されたという屈辱を受けたわけだから、会場変更に素直に賛成するわけにはいかない。しかし最後は、「賛成に合意はしないが、IOCの決定を妨げない」と言って矛を収めた。EUからイギリスが離脱するかどうかのブレグジット問題では「合意なき離脱」という言葉が飛び交っているが、今ブレグジット問題が日本でもよく報道されているからなのか、この言葉にひっかけて、小池さんは「合意なき決定」だとコメントした。

(略)

小池さんはどういうメッセージを出せばよかったか?

トップに求められる判断というのは、究極の二者択一の判断ばかりだ。

(略)

巨大組織になればなるほど、まずは現場で議論し、次は課長クラス、次は部長クラスと物凄い時間と人数をかけて散々議論した結果、それでも結論が出ないものがトップに回ってくるものだ。今回の札幌案も、IOCや組織委員会、さらには組織委員会の中に入っている都の職員も含めて、膨大な議論を経て出てきた結果だろう。

ゆえにトップの小池さんとしては、札幌案に賛成か反対かの二者択一の判断しかなく、その他の代替案は既になかったと思う。だからこそ、小池さんは、札幌案に「賛成か、反対か」を判断し、それを明確に内外に伝えなければならなかった。

ところが小池さんは「合意なき決定」ということで、賛成するわけではないが、反対するわけでもないという、玉虫色の説明をした。これはトップとしては最悪の説明だ。

これから札幌案で進んで行く。どうせそうなるなら、小池さんは明確に「賛成だ」と表明し、都庁の職員に対しては「札幌でのマラソンが成功するように全力を尽くしてほしい」、都民に対しては、「東京でマラソンができなかったのは残念だが選手のことを考え、選手が最高のレースができるように、札幌でのマラソンが成功するように協力をお願いしたい」とメッセージを発していれば、どれだけ素晴らしかったか。もちろん、札幌での開催なので都民税を使うわけにはいかないことを明言しながら。

このようなメッセージであれば、札幌案への反対者が0になるわけではないが、それでも反対の声は「まあ仕方がないか」というマイルドなものに変わるだろうし、何よりも、都庁職員や都民の意識が札幌開催に向けて前向きなものとなる。

しかし小池さんは、これまでにもよくあった「よく分からない説明」をやってしまった。小池さんは自分が苦しい立場に立った時の説明では「よく分からない説明」を多用する。まあこれは小池さんに限らず、ほとんどの政治家もそうだし、企業トップにも多い。僕にしたって、自分では気づかないところで「よく分からない説明」をやっているかもしれない。