かつての友人にも冷たい目で見られる

中本さんに言葉をはさませず、彼は続けた。

「力もしんどいと思うよ。ヤクザじゃいうてもシノギがないわけじゃけん。しかもドンパチなりそうじゃん。そりゃ鉄砲玉になるだろうね」

シノギとは、暴力団関係者が資金を得るための活動のことだ。執行猶予中の身でうかつなことはできない力さんを指して言ったのか、あるいは暴力団への締め付けが増す昨今の情勢を指して言ったのかは定かではない。

ただ、ドンパチ=暴力団同士の抗争が起これば、下っ端の力さんが、鉄砲玉、つまりは殺すか殺されるかの最前線に立たされかねないというのは一理あった。役に立たない人間を置いておくような甘い組織ではないだろう。本人も自覚あればこそ、中本さんに「何かあれば、俺が真っ先に消されるじゃろうね」と言ったのだ。

翌日、基町の家にやってきた力さんは、友人だったその男性が来たと知るや、さっと表情を曇らせ、「俺の職業のこと、けなすじゃん。絶対いい気せん」と下を向いた。

かつての友人に冷たい目で見られ、距離を置かれていることを感じ取っていた。男性は力さんに連絡することはもうないと言ったが、力さんの側も、家庭や仕事がある昔の仲間には迷惑になると考え、遊ぼうと声をかけるのは控えているそうだ。

彼女を弟に奪われた揚げ句、結婚

組をやめたくなることはあるかという話題になり、力さんは「入る前からやめとこうかとは思ったよ」と打ち明けた。

力さんが組員になる少し前、当時付き合っていた彼女が、それだけはやめてくれと言ったのだという。力さんの心はぐらついた。しかし、まもなく思いがけない形で、踏みとどまる理由がなくなった。彼女が力さんの弟とくっついてしまったのだ。

自暴自棄に陥った力さんは、それでも彼女に対しては「自分がそうさせたのかなと思う部分もあるし、まあ弟と頑張りやーって声かけた」と最後まで気遣った。

私は一度だけ力さんの弟と会ったが、一般社会で働いていく決意は固そうだった。

その後、力さんの弟は彼女と結婚式を挙げた。力さんが招かれることはなかった。親族席にはかつて面倒を見ていた中本さんや田村さんが座ったといい、写真を見せてもらうと、白いタキシードに身を包んだ力さんの弟は、友人や職場の人たちに祝われ、新婦とともに幸せそうに微笑ほほえんでいた。