POINT1「ダメな子供も、ありのままを受け入れる」
今回、4人の東大生とその親を取材して強く印象に残ったのは、多くの親が「そんなんではダメでしょ」とつい小言を言ってしまいそうな状態でも、わりと放置していたということだ。
小学3年生の頃にいじめをきっかけに人間不信に陥って以来、「ゲームがお友達」状態になった山越遼一さん(文学部4年生)。勉強そっちのけでゲームばかりしていたことを、共働きで忙しかった両親も気づいていたが、ゲームを取り上げたり、頭ごなしに叱ったりしなかったという。
母親は私たちの取材にこう話した。
「親が叱って勉強を無理にさせても、意味はないですよね。『自分の人生なんだから、自分で責任を持って決める』というのが、うちの教育方針。ゲームをやりすぎているなとは思っていましたが、本人が気づくのを待っていました」
教養学部1年生の指原佑佳さんは、飽きっぽい性格で小学生時代、どんな習い事も長続きしなかった。でも本人がイヤになって辞めても、そのこと自体で叱られることはなかったという。その代わり、両親からこんな声をかけられたそうだ。
「続けることで幸せじゃなくなるなら、やらなくていいよ」
勉強をするのも、習い事をがんばるのも、本人次第。父親も母親も、親が押し付けてできることではないという、ある種の割り切りを持っていたのだ。
「まともに学校に行けないなんて、僕は生きている価値がない」
さらに、学校に行けないという深刻な状態でも、「あなたはそのままでいい」と受け入れてもらったと語るのは、教育学部3年生の小川護央さんだ。もともと母親はしつけなどに厳しい人だったが、中学に進学すると友人との関係がギクシャクしたことがきっかけで学校に行きたくても行けないと苦しんだ。「まともに学校に行けないなんて、僕は生きている価値がない」。そう言って泣き崩れる護央さんを見て、「あなたはあなたのままでいいんだよ。ただ、生きて笑っていてくれればいい」と繰り返し伝えてくれたという。
この言葉は、不登校に苦しむ息子を救いたいという極限状態で発せられたものだ。結局、彼は高校浪人してトータル3年半以上、ほとんど学校に行けずに自宅で過ごすが、その間に母親は登校を焦らせることなく、言葉どおりに「ただ生きて、笑ってくれればいい」と支え続けた。
彼らは皆、このあとに自分自身で「変わりたい」と思ったり、勉強の楽しさに目覚めたりして、アクセル全開で努力するようになる。アクセル全開でがんばるには、心のエネルギーが満タンになる必要がある。
今回取材した親たちは、「ダメ」な状態の子供を必要以上に叱ったり、干渉したりせず、ありのまま受け止めた。だから、ただでさえ落ち込んでいる子供のエネルギーを余計に削ぐような失敗はしなかった。そして、親はただ普通にごはんをつくり、会話をする日常生活を送るなかで、子供たちは努力するための心のエネルギーを、十分に蓄えることができたのだ。