極力、自分のペースで仕事できる状態をつくる
とはいえ、最低限の計算はしました。漫画はまずネームを描き、担当者に見せてOKをもらってから作画に取りかかります。人からOKをもらって完了する仕事は不確定要素が大きく、時間が読みにくい。そこでまずネーム13本すべて担当者と打ち合わせして、同時に取り掛かりました。先にネームさえ終わらせておけば、手を動かす作業はアシスタントに任せられるし、後はこちらのペースでできます。
仕事は定時まで、というやり方も貫きました。ただ、残業なしでは終わらないので、朝5時に起きて描き始めました。労働時間としては残業しているのと変わりませんが、終わりが決まっていると、コーヒーを飲んだり、必要以上に考え込むといったムダなことをしなくなります。おかげでいつもより密に作業ができたのではないでしょうか。最終的には、13本すべて無事に落とすことなく描き終えることができました。
『こち亀』は連載40年、単行本200巻で幕を下ろしました。100巻を越えたあたりから「どこまでいくのかな」という思いがあって、僕も読者も納得できるキリのいいところで区切りをつけさせてもらいました。
区切りをつけた理由の一つは、『こち亀』の連載中にもアイデアが次々に湧いてきて、早くそれらを形にしたいという思いがあったから。いままでも読み切りで別のものを描いてきましたが、時間の制限なく思う存分描いてみたかったのです。
『こち亀』終了後、僕は新たに連載を4本始めました。描きたいことが本当にたくさんあったので、これでも絞り込んだんですよ。いきなり4本同時は無理だろうと言われましたが、僕にとっては奇抜でも何でもなく、実際に余裕でやることができました。いま好きなことを好きなだけ描けるのも、40年間続けてきた時間術があるからかもしれませんね。
(構成=村上 敬)