公益法人の活動は国の負担を減らすから非課税

まず、(1)で指摘されているように、宗教法人だからといって何から何まで非課税というわけではありません。宗教法人が「収益事業」というものを行うと、法人税の対象になります。しかし、原則として宗教法人の収入は非課税とされています。なぜなのでしょう? 神聖な行為だからでしょうか。実はもっとより深い課税の原理があるのです。

まず、法人税法では宗教法人も「公益法人等」に分類されています。「高益」ではなく、「公益」ですから公共に益する団体とみられていることになります。この公益法人等は「収益事業を行う場合」等(他には「法人課税信託の引受けを行う場合」「退職年金業務等を行う場合」がありますが、本稿とは関係ないので省略します)に限って課税されます。原則非課税、収益事業に限って課税、という仕組みになっているのです。

その理由をまず確認しておきましょう。日本の法人税法上、実は昭和二五(一九五〇)年まで公益法人はまったく非課税だったのです。その中心的理由としてよくいわれてきたのが、①公益法人は専ら公益を目的として設立され、営利を目的としないというその公益性と、②たとえ収益事業を行ったとしても、それから生じる利益は特定の個人に帰属する性格のものでない、ということでした。

①は、換言すると、公益法人が本来国や自治体が行うべき教育や福祉などの公益的活動を行い、そのことによって国等は本来支出すべき歳出を軽減できる、ということです。公益法人の活動によって、国や自治体が十分にまかなえない公益サービスが提供され、本来国等が負担すべき財政支出が軽減されるのなら、そのような団体に課税せずに、むしろ公益的活動の増進と歳出の軽減を図る方がいい、ということです。

最近は国の財政がますます厳しくなってきていますから、公益法人に頑張ってもらい、国にはできない公益サービスをしてもらう必要は確かにありますね。

配当をしないので収益事業も非課税という理屈

次に、②は、法人税法の本質に関係しています。ある法人が儲けたとします。この儲けは誰のものでしょうか? 法人自身のものでしょうか? 実は、法人というのは、団体でも取引できるように、法的能力を認めるために制度化したものに過ぎませんから、実際にその組織を支配しているのは個人です。民間の株式会社であれば、会社の利益は株主に分配すべきものですから、法人の儲けは結局個人株主の儲けとして課税すればよいことになります。

しかし、個人に配当するまでは課税しないとすると、配当をずっと先送りして法人にため込もうという節税策が必ずとられます。それでは困るので、法人段階でまず課税し、個人段階で配当に所得税が課されるときに事前に払った法人税分を調整しようという仕組みで所得税は構成されています。

要するに、法人の所得は配当を受ける株主のものに過ぎない、と考えているわけで、法人税は株主の所得税分の前取りというわけです。これがいわゆる法人擬制説的法人税といわれるものです。

これに対して、宗教法人を含む公益法人は、営利を目的とするものではなく、その利益を関係者に配分することも予定されていません。また、残余財産の処分についても規制があり、個人が勝手に自分のものにすることはできない仕組みになっています。

つまり、公益法人は利益を得ても、出資者に配分することはなく、出資者は公益法人活動から個人所得としての配当を受けることもないので、個人所得税の前取りとしての法人税の対象にする必要が本来ないとされてきたのです。このように法人税を個人所得税の前取りと考えれば、原則非課税は正しいことになります。