こうなると勇武派や、上海閥などが支援する民主化要求グループは焦りを感じ、ますます過激にならざるを得ない。実際、9月の中旬に行われたデモでは多くの火炎瓶が使用されるなど、一層過激化する様相を示している。

中国工作員による「なりすましテロ」の可能性も

2019年10月1日、中華人民共和国は建国70周年記念を迎える。すでに北京では大規模な式典の準備が始まっており、香港のデモ隊との衝突で負傷した警察官も招待されている。この式典は、習近平主席への個人崇拝を全面的に押し出すものになるであろう。

それに対し、民主化を求める「勇武派デモ隊」が、香港でも行われる記念式典の前後に何か騒擾そうじょうを起こす可能性もある。上海閥はそれを支援するであろうし、場合によっては誘発さえするだろう。

この大切な記念日に大規模な抗議デモが発生し、軍事パレードや記念式典が妨害されるなどの事態が発生すれば、習近平政権はその顔に大きく泥を塗られる事態になる。上海閥にとっては、それがもっとも胸のすくことであるからだ。一方で、もし本当に大規模でより暴力的な騒擾が発生し、香港警察の対処能力を超えると判断されれば、深圳に展開する人民武装警察隊が投入され、香港は一気に武力制圧されてしまうのではないかという心配の声も上がっている。

そう考えると、この建国記念日前後に、例えば無差別銃撃や爆弾テロのような事件が起こってくれた方が都合がよいと考えているのは、上海閥だけではなく、習近平政権も同じではないだろうか。「デモ隊の暴徒化」が「テロ活動」に発展すれば、習政権は一気に人民武装警察隊を香港市内に投入し、「テロ支援容疑」で上海閥の関係先を一斉摘発することもできるからだ。

このように考えると、場合によっては習政権の秘密工作部隊が仕掛ける「偽旗作戦(なりすまし)テロ」が行われる可能性すらあるわけだ。事実、2015年に廃刊した老舗新聞『成報』の元会長で、習政権に批判的だった谷卓恒氏(現在アメリカに亡命中)は、香港には数万人の中国工作員がすでに潜入していると指摘している(自由時報、2019年3月2日 "谷卓恒:中國已牢牢掌控香港 數萬特工潛伏各行各業")。だとすれば、なりすましテロのような工作も決して不可能ではあるまい。