事実、暴徒化した若者が香港議会を一時占拠して内部を破壊し、世界を驚かせた際(2019年7月)には、香港警察はなぜか彼らの破壊行為を止めることはなかった。これについて、民主派の重鎮で元立法会議員の李柱銘氏は「大きな運動があるときは共産党の人間がその中にいるものだ」と指摘し、中国共産党の工作活動である可能性を示唆している(産経新聞、2019年7月2日 "政府は破壊活動を待っていた? 香港暴徒化に渦巻く臆測")。もちろん、上海閥もこの辺りはかなり警戒しているだろうが、情勢はどう見ても習政権側に有利なようにも見える。
実は利害が一致する習氏とトランプ氏
こんな習近平政権による香港鎮圧計画は、実はトランプ大統領(「米政府」ではないことに注意)にとっても決して悪い話ではない。上海閥と緊密な関係を維持しつつ、世界各地で戦争を作り出して巨額の利権をむさぼってきた米国エスタブリッシュメント層や情報機関(つまり、反トランプ派)を弱体化させ、世界中から米軍を撤退させることで軍事費や社会保障費を抑え、北朝鮮を完全に取り込んで地下資源ビジネスで儲けるという、自身の目的に資することになるからだ。
こうして見ると、トランプ氏が香港の民主化運動支援にそれほど前向きではない理由や、数千人のデモ隊が在香港米領事館に向けて「トランプ大統領、香港を解放してください」という旗を掲げて行進し、アメリカによる圧力を呼びかけたわずか数日後というタイミングで、香港の民主化運動に同調してきたボルトン補佐官がクビになった点は奇妙に合点がいく。
香港問題に関する限り、トランプ氏にとっては「敵(反トランプ派+上海閥)の敵(習近平一派)は味方」ということであろう。当の習近平氏にとっても、まずは国内の敵を一掃しない限り、アメリカとの覇権争いを満足に戦い抜くことはできない。つまり、習氏とトランプ氏の利害は、少なくとも短期的には一致している。
一方で長期的に見れば、習近平一派と上海閥が激しく争うほど、状況は全ての面でトランプ氏にとってさらに有利になる。香港での混乱が長期化すれば、それはやがて習近平体制の基盤を揺るがすことにもつながるし、上海閥を支援する米国内の反トランプ派のエネルギー消耗にもつながる。トランプ氏は、そんな両者の勝負がついたのちに、「消耗した勝者」に対して厳しいディールをふっかければよいのである。