“ライブ”な感覚を人々に届けた前澤氏のセンス

以前から、ZOZOという企業は、常に新しいことに取り組もうとする、チャレンジスピリットにあふれた企業だという見方を持ってきた。そのかなりの部分が、前澤氏の“感覚”“センス”に支えられてきたと思う。

前澤氏が目指してきたことを一言で表現するとすれば“ライブ”な感覚を人々に届けることではなかっただろうか。高校生の時、前澤氏はバンドを結成し、その後はCD販売ビジネスもはじめた。さらに、バンドのメジャーデビューを果たしつつ、インターネット通販などを手がける“スタートトゥデイ(ZOZOの前進)”を創業した。

前澤氏はバンドのライブに行くような鮮烈な感覚を、ビジネスを通して人々に提供したいと考えたのだろう。それは、モダンアートの振興に取り組む現代芸術振興財団を創設したことからも伺える。

前澤氏のもと、ZOZOではCG(コンピューターグラフィックス)などを駆使することで、どの場所にいても、実店舗で洋服を選ぶような感覚をユーザーに与えることが重視されてきた。それが多くの支持を集め、ZOZOの急成長を支えた。それは、2007年の上場以降、ZOZOの株価が右肩上がりとなったことがよく示している。

背景に孫正義の野心

ただ、2018年ごろからZOZOの成長は鈍化しはじめた。自分に合ったスーツを作ることをコンセプトにした“ZOZOスーツ”の生産遅延などのトラブルが生じたことは、同社のデジタル技術への理解力不足を露呈させてしまった。ZOZOは、前澤氏の感覚にもとづいた新規事業が確実に稼働する体制を整えることができなかった。さらに、ZOZOは客離れを食い止めるために割引サービスを行い、ブランドイメージの棄損を懸念した大手アパレルブランドの撤退を招いた。

企業が新しい取り組みを進めるには、顧客や取引先などに迷惑が掛からないようしっかりとしたシステムや組織体制を整えなければならない。財務管理も含め、前澤体制下のZOZOにはその発想が不足していたように思う。

ヤフーがZOZOを買収した狙いは、ECビジネスを強化し成長力を高めることだ。このビジョンには、ソフトバンクグループを率いる孫正義会長の野心が大きく影響している。

中国のアリババや英アームなど、世界のIT先端企業への出資や買収を続ける孫氏は、とにかく先端テクノロジーの実用化を通して、世界のトップを目指し、成長を実現することにこだわっている。ヤフー経営陣に相当のプレッシャーがかかっていることは想像に難くない。