脅しながらもギリギリのところで人間関係を維持
交渉相手との個人的な人間関係を緊密にすることに関しても、トランプのやり方は神業だと思う。これは人間としてのキャラクターがものすごく影響してくるところだけど、このキャラクターづくりもある種の計算が必要だ。トランプはその点、しっかり計算しているよ。
彼の特徴は、個人的な関係が必要だと感じた相手に対しては、特に直接対面したとき、徹底して相手を持ち上げるということにある。ここまで言うかよ! というくらいに持ち上げるよね。
彼の手法が神業的なのは、激しく喧嘩をした相手にも、コロッと態度を変えて、喧嘩の激しさに比例して丁寧に敬意を表するところだ。もちろん、本心はどうかわからないけど、表面的にはそのような態度振る舞いを徹底的に行っている。
彼のこのような態度振る舞いは、彼と対面することもない第三者にとっては、不誠実で異常な精神の持ち主であるように映るかもしれない。特に自称インテリたちにとってはね。
でも、自称インテリたちはそんな心配をしなくてもいい。あんたたちは、トランプと直接交渉するチャンスもなければ、会うチャンスだってないんだから。
もちろん、真のプライベートな友人関係を形成する場合だったら、トランプのような態度振る舞いは逆効果かもしれない。でも、トランプが今形成している人間関係は、国益と国益が激しくぶつかり合う国際政治における、国家指導者間の人間関係だ。プライベートな友人関係とはまったく違う。
そんな関係だから、時には激しく対立し、喧嘩状態になることもあるだろう。特に、国家間の交渉時、相手にプレッシャーをかけながら交渉するのがトランプの常套手段。相手の弱みを的確に突くやり方なんだ。
通常、国家の指導者間では、儀礼的な態度振る舞いが主軸になる。まさに国家の指導者にふさわしいとされる、お坊ちゃん、お嬢ちゃん的な態度振る舞い。ポリティカル・コレクトネスに包まれた、綺麗な態度振る舞い。自称インテリたちが好むやつだね。
でもそれは、ほとんどが形式的・挨拶的な態度振る舞いであって、相手に対して失礼にならないことを第一に考えているだけ。それでは、現状を打破し、国家間の課題・事態を自分に有利に動かすことにはつながらない。
しかし、国家間の交渉に限らず、現状を打破し、交渉によって事態を自分に有利に運ぼうと思えば、相手を「脅す」か、相手に「利益を与える/譲歩する」か「お願いする」しかない。
トランプのように、「脅し」を多用する交渉手法でもっとも重要なのは、脅しながらもギリギリのところで交渉相手との人間関係は維持していくということだ。
これはとんでもない高度なテクニックで、普通はこんなことできないよ。相手を脅せば、普通は人間関係が決裂する。そこで、なお力で押し込んでいくのは素人の交渉人だ。脅しながらも決裂しないようにするのがプロの交渉人。