従業員たちが申し立てた「第三者破産」
一番困惑し、悩んだのは従業員たちだろう。自分たちの働く会社が、何やら怪しい人物の介入を受け、後ろ暗い関係性の中心に立たされているのかもしれない――情報が集まり、疑念が渦巻く中、彼らは行動を起こす。
商法では、債務者が自己破産を申告する以外に、債権者が企業の破産を申し立てる「第三者破産」が認められている。従業員は雇用主に対して「労働対価」という債権を持つ債権者だ。そこでスキージヤーナルの従業員たちは、2018年1月9日付で、「債権者」の立場からスキージヤーナルの第三者破産を申し立てたのだ。
申し立ての事由には、「支払いがすでに遅れており、支払い不能状態にある」(申し立て書要旨)という事実のみが記載されているが、内心はもっと知りたいことがあったに違いない。ともあれ、この申し立ては同日受理され、同月30日、スキージヤーナルは破産手続き開始決定を受けた。
取引先からの信頼は厚かった
こうして従業員が自社に終止符を打つ格好となったわけだが、取引先からは「スキージヤーナルの社員は、社長不在の中でも説明責任を果たそうと誠意的に対応してくれた」という声が多く聞かれた。
また、倒産が周知されて以降、スキージヤーナル発刊の『月刊スキージャーナル』『月刊剣道日本』には、「ライセンスを買い取りたい」というスポンサーが現れる。これはまぎれもなく、従業員らが熱心に続けてきた仕事に対する称賛の証といっていいだろう。
スキー需要は盛り返さないとの判断なのか、残念ながら『月刊スキージャーナル』は休刊のままだが、『月刊剣道日本』は2018年11月発行の2019年1月号から月刊誌として復刊している。近年、同社のように倒産間際に社長が逃げ出し、社会的問題に発展する事例が散見する。しかし自社が危うくなったときに、つらく悔しくても、最後の審判を正しく下し、事後の対応に正面からあたるのもまた、経営者の責任なのである。