決められない政治の背景にある様々な「ねじれ」
離脱延期法が成立したということは、議会の過半が10月末のノーディールを回避したいという意思を持っていることだ。首相の真の狙いはさておき、その瀬戸際外交が破綻すればノーディールになるリスクが大きい点を議会は問題視した。首相の独善的な振る舞いに歯止めをかけたという意味では、英国の議会制民主主義は健全に機能している。
反面で、議会が首相の方針を拒絶するという展開は穏健な離脱を志向していたメイ前首相のときから常態化している。それではなぜ英国は、こうした決められない政治を繰り返しているのだろうか。その理由はEU離脱を巡って英国政界で生じたさまざまな「ねじれ」にあると筆者は解釈している。
与党の保守党は先の総選挙で過半数割れし、北アイルランドの地域政党である民主統一党の閣外協力を得ている状況にある。そのため、本来なら一枚岩にならなければいけないが、大量の造反が出たことが示すように離脱の方針を巡る「ねじれ」を党内に抱えていた。首相はそれを力で封じ込めようとしたが、結局失敗した。
労働党と自由民主党の共闘関係も微妙
そもそも論になってしまうが、EU離脱を本気で主張していたのは、保守党の一部右派議員に過ぎなかった。理念よりも現実を重視する議員も数多く存在していたわけだが、キャメロン元首相(当時)が国民投票で「パンドラの箱」を開けてしまった結果、この「ねじれ」が保守党を苦しめることになったといえよう。
同様に、最大野党の労働党も「ねじれ」を抱えている。コービン党首は基幹産業の国有化を主張するなど極左的な政治家であり、労働党本来の中道左派路線とは本来なら相容れない。また反ジョンソン首相で共闘関係にある自由民主党との関係も微妙である。自由民主党の党是である自由主義とコービン党首の極左スタンスは真逆の発想なためだ。
このように、与党も野党もまとまり切らない。加えて、離脱強硬派として知られるナイジェル・ファラージ氏が率いる離脱党が一定の支持率をキープしている。国政の経験が皆無である彼らが議会に進出すれば、それが新たな「ねじれ」を議会にもたらすことになりかねない。総選挙を実施しても「ねじれ」が解消するとは限らないのである。