第4に、事業承継を促して産業基盤を強化する可能性が指摘できる。東京商工リサーチの調べによれば、時系列的に見て倒産件数は減少するも、廃業する企業が年々増加している(※1)。この背景として、社長年齢が上がるほど赤字企業割合が高まる関係がみてとれる(※2)ことから、社長年齢の高齢化が企業の廃業増加に影響している面が示唆される。

この点に注目すれば、あくまで総論としてではあるが、最低賃金の引き上げを契機に、事業承継・後継者育成を推進し、地方の賃金の底上げと企業の存続を同時に実現することが期待できると思われる。

(※1)東京商工リサーチ「2018年 休廃業・解散企業 動向調査
(※2)東京商工リサーチ「2018年 全国社長の年齢調査

最低賃金の一律・急進的な引き上げは危険

以上、積極的な最低賃金引き上げの論拠を指摘したが、実際の推進にあたっては考慮すべきことがある。まず、わが国には赤字企業が大量に存在するという事実である。国税庁「会社標本調査」によれば、2017年度で62.6%の企業が赤字企業であり、その雇用量を推計すると1675万人と、全雇用者数の28.6%に相当する。

もっとも、赤字企業であっても多額の資産を持つ企業も多く、直ちに廃業につながるわけではないし、少なからぬ中小企業が節税対策のために意図的に利益を圧縮しているとの指摘も聞かれる。

とはいえ、経営基盤の脆弱な企業が多いことも事実であり、低収益企業(赤字企業)の存続が雇用需要を嵩上げし、有効求人倍率を高く見せかけている可能性を否定できない。この場合、急激な最低賃金引き上げで低収益企業が大量に廃業に追い込まれれば、雇用需要は急減し、結果として失業者が急増する恐れは排除できないであろう。

加えて、そもそも人口減少で経済規模が縮小する地域では、生産性向上のハードルは高い。急激な最低賃金の引き上げによる無理な人件費増が廃業を増やし、地域産業基盤をかえって弱体化させるリスクがあることには、十分な配慮が必要である。

さらに留意すべきは、求人が求職を数の上で上回っていたとしても、職種別・地理的なミスマッチがある場合は、失業増加の恐れが高いことである。実際、有効求人倍率は全職種では1を超えているが、職種別にみれば1を下回る職業も多い。とくに、ボリュームの大きい「事務的職業」は0.5倍を下回り、技能的にはすぐに就きやすいと思われる「運搬・清掃・包装等の職業」も0.7倍程度にとどまっている。

以上のように、最低賃金を積極的に引き上げていく必要性は十分に認められるものの、地域における最低賃金と生産性、雇用の関係は極めて多様であり、全国一律に考えて急進的に進めるのは危険であるといえよう。地域ごとの実態を精査したうえで、総合的な政策(生産性向上支援策、労働移動円滑化支援策)を講じることが重要といえよう。