普通に暮らしているだけでスコアが上がる不気味
トークンエコノミーと比較したとき、芝麻信用などの信用スコアが異なっているのは、このスコアが「なぜ上がったり下がったりするのか」がよくわからないという点です。例えば芝麻信用は利用する際にSNSを通じた交友関係とか学歴なども入力することになっていますが、どの程度重みづけされてスコアが計算されるのかは公表されていません。
例えば、筆者(梶谷)が2018年の夏に北京に行く前には、自分の芝麻信用のスコアは577点だったのですが、3週間滞在し、いろんなサービスを使っているうちに1点上がって578点になりました。しかし、なぜ上がったのかはさっぱりわからないのです。
こういった、「よくわからないシステム」によって行動が評価されて、それが何らかの形で自分に利害を及ぼすようになる。つまり、再帰的な行動評価のシステムがブラックボックスになっていると、人々はいわゆる「自発的な服従」と言われる行動をとるようになってきます。つまり、おとなしく従っていたほうがより恩恵を得られるので、みんな自発的に従うという状況が生じているわけです。
各方面のブラックリストを連結し、行動を制限
この仕組みをもっとわかりやすく、あからさまに実施しているのが2つ目の「懲戒」分野での社会信用システムでしょう。金融分野の個人情報の収集が進むにつれて、さまざまな分野で問題のある企業、個人のブラックリストの作成と、その公開が進められたのです。脱税や規則違反、環境汚染企業のブラックリスト、旅行先で問題を起こした個人のブラックリストなど、各省庁、部局が大量のブラックリストを制定しています。
これらのブラックリストは個別のものでしたが、2014年以降は複数のブラックリストを連結し、一括検索できるデータベースの構築が始まりました。特に重要な動きは「信用コード」の制定です。中国におけるすべての企業、個人に信用コードが付与されたのです。これは戸籍制度と結びついた身分証に次ぐ、いわば第二のIDと言ってもいいでしょう。
「信用中国」という公式サイトからこの信用コードを使って検索すると、それぞれの企業、個人の信用記録を一覧できます。
「社会信用システム計画綱要」には記載されていないのですが、懲戒機能という面で補完的な役割を果たしているのが「失信被執行人リスト」です。日本メディアも2000万人を超える人々(ただし、のべ人数ですが)が航空機や列車の利用を制限されているなど大きく報じていますが、それはこの制度によって懲戒を受けたためです。