「罰を考えてみました」のノリでゴルフ場出禁

失信被執行人リストには「老頼ラオライ」という通称があります。老頼とは「言い逃ればかりして実行しない人」の意味です。裁判判決をちゃんと実行しない人をリスト化し、罰を与えて実行するよう促すわけです。

では、具体的にどのような罰が与えられるのでしょうか。2017年に改定された「失信被執行人の合同懲戒に関する協力覚書」では、55項目が規定されています。

その中には飛行機、列車の1等寝台、船舶の2等船室以上に乗れないとか、1つ星以上のホテルやナイトクラブ、ゴルフ場での消費禁止や、学費が高額な私立学校に子どもを通わせることを禁止という項目があります。他にも証券会社の設立禁止や、政府サイトやメディアでの実名公開、人民元を外貨に替える際の審査厳格化……など、やたらと広範かつ多様な項目が盛り込まれています。

というのも、この覚書は中国共産党の党機関、省庁、中国鉄路総公司などの国有企業など44もの部局が合同で発表したもので、それぞれが「自分たちができる罰を考えてみました」というノリで、懲戒規定を盛り込んだためです。

高速鉄道や航空券の販売サイトはすでにリストのデータベースとの接続を終えており、掲載者への販売をブロックすることができますが、ナイトクラブやゴルフ場との連携はまだで、リスト掲載者でも自由に使えるようです。結局、多くの項目は規定をつくっただけで稼働していないのが現状です。

ガチガチの官僚制が生んだ「無理やり」な規制も

中国は世界最古の官僚制国家であり、また同時に社会主義国でもありますので、官僚主義的な法規制を乱発する、2大要件が重なっています。そのため実現性が皆無な法律、規制がつくられることがままあります。その中にはあまりの荒唐無稽さに笑えるものも少なくありません。

2012年には北京市が公衆トイレ管理サービス基準なる文書を発表しましたが、その中に「公衆トイレ内におけるハエの数は2匹を超えてはならない」という項目があり、話題となりました。検査時にたまたまハエが飛んできたらアウトになるのか、などと中国のネットユーザーから笑いものにされたのですが、北京市政府の担当者はともかく基準をつくらなければならなかったので無理やりひねり出したのでしょう。

失信被執行人を対象とした処罰でも実効性がないものが多く含まれています。今後洗練されていき、実効性を高めていくことになるのでしょうが、現時点では膨大な処罰規定のほとんどが稼働していない状況です。問題を多くはらんだ処罰規定ですが、その目的意識ははっきりとしています。

それは「裁判判決を守らない者を生きづらくする」ということです。「失信者寸歩難行」(信用を失った者は一歩も歩けない)という言葉で表現されるのですが、生活のさまざまな場面で支障がでて生きづらくさせることを目的としているわけです。