特に、普段の仕事で少し疲れ気味だったり、目の前のことに追われている人にとっては、「本来の自分」に戻っていく効果がある。仕事をすること、生きることへのモチベーションを力強く回復することができるのである。

脳には、「隙間」が必要である。目の前の「オン」の情報処理でいっぱいになってしまうと、内側からわきあがってくる情報を拾えなくなってしまう。

扁桃体をはじめとする回路に潜む感情や、側頭連合野の奥深くにしまい込まれた記憶。これらを深掘りして、初めて見えてくる自分の姿がある。

私が何もしない「バカンス」の効用を実感したのは大学院生のときである。学生向けの企画で、「バカンス」の先進国であるフランス系企業が運営するインドネシアのリゾートホテルに滞在した。

何日も、基本的に何もしないでプールサイドで寝転がったり、本を読んでから昼寝をしたりしていたら、不思議なことが起こった。心の内側からかっかと熱いものがこみあげてくるような感覚があったのである。

前向きに生きる勇気が出てきた

そして、しばらく忘れていた、人生でこんなことをしたいという夢や、志のようなものを思い出した。前向きに生きる勇気が出てきた。

当時の私は、大学院で時間に追われていて、初心を忘れかけていたのかもしれない。「バカンス」で何もしない時間を持つことで、自分の奥底にある感情や記憶が意識に上ってきたのである。

仕事が忙しい人、目の前のことに追われている人ほど、思い切って「バカンス」を取ってほしい。何もしない空白をつくることで、忘れかけていた自分がよみがえってくるはずだ。

もっとも、まとまった休みが取りにくいという人は、「プチバカンス」でもいい。どこにも出かけずに、自分の部屋でゴロゴロと横になって、うたた寝をするのでもいい。

大切なのは、活動を詰め込まずに、思い切って何もしないで過ごすこと。リラックスして、脳の「空白」さえ生み出せれば、いつでもどこでもあなただけの「バカンス」が始まる。

【関連記事】
村上春樹が野球観戦中に小説の着想を得たワケ
やりたくない事をやり続けると病気になる
毎日心地よく暮らす人の脳は危険な状態にある
「空気が読めない子」は親のせいではない
医者がうつ病患者に"がんばれ"と言うワケ