安倍首相が繰り返し使う「DFFT」の意味

2019年1月、スイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席した安倍晋三首相は演説し、「成長のエンジンはもはやガソリンではなくデジタルデータで回っている」と述べ、ビッグデータ活用の重要性を訴えた。そのうえで、消費者や企業活動が生みだす膨大なデータについて、「自由に国境をまたげるようにしないといけない」とし、基本的なルールをつくるため世界貿易機関(WTO)加盟国による交渉の枠組みを提案。WTO78カ国・地域の閣僚による「WTO電子商取引声明」が出された。さらに、6月に大阪で開いた「G20大阪サミット」でも国際的なルール作りを急ぐことが確認され、安倍首相は「大阪トラック」の開始を宣言した。

そうした場で、安倍首相が繰り返し使っているのが「DFFT」という言葉。データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト(信頼ある自由なデータ流通)の略である。医療や産業、交通などのデータの自由な流通によって、経済成長や貧富の格差の解消につながると訴えたのだ。

フェイスブックやアマゾンといった巨大プラットフォーマーを中心とする米国企業は、こうしたデータ活用を積極的に行っており、米国政府もこうしたデータが莫大な付加価値を生み出すという立場を取っている。プライバシーには一定の配慮はするものの、一定の本人同意を得れば、個人情報を利用できるという姿勢だ。

米国型の「積極利用」だけでは不十分

一方、人権意識の高い欧州諸国は、個人情報の利用に神経質になっており、企業のデータ活用にさまざまな規制を加えようとしている。企業がどんな自分の個人データを保有しているかを、個人が知る仕組みを作るべきだ、といった議論がさかんに行われている。

米国のプラットフォーマーによるサービスが国内で定着している日本は、米国型の積極利用へと突き進みつつある。安倍首相は演説の中で、個人情報や知的財産、安全保障上の機密といったデータについては、慎重に保護されるべきだと述べているが、その実現方法について、国民の間で議論が煮詰まっているとは言い難い。

経済成長に結びつけるデータの自由な流通は間違いなく重要だが、常に個人のプライバシーが危機にさらされることになる。米国型の自由利用を進める一方で、欧州諸国と共にプライバシー保護に向けた国際ルールを作り上げていくことにも、積極的に参加していくべきだろう。

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