リピート客が増えない原因「定番がない」

その課題は、例えば「魅力の深掘り」だ。冒頭の調査項目にあった「もう一度行ってみたい」温泉地では、由布院は6位とランクを下げた。これまで箱根温泉(神奈川県)、草津温泉(群馬県)に次ぐ3位が定位置だったが、そのブランドに陰りが出てきたのか。

由布院は2016年4月の「熊本地震」(熊本・大分地震)で被害を受けた。建物の損壊は一部を除いて軽微だったが、観光は大打撃を受け、予約キャンセルが殺到した。

3年たち、客足は戻った。由布市の調査による「平成30年観光動態調査」では、2018年に同市を訪れた観光客(日帰り+宿泊客)は442万1672人。対前年比114%となった。

「調査データの総数のうち、約9割が由布院温泉なので、由布院への観光客数は約400万人となっています。熊本・大分地震の前よりも多くの方が来られるようになりました」長年にわたり観光客と向き合う、由布市まちづくり観光局・事務局の生野しょうの敬嗣けいじ次長は、こう説明する。

観光客数が回復したのに、「もう一度行きたい」が下落した理由を各地で聞いてみた。関係者は懸念しつつ、冷静に受け止めていたのが印象的だった。

「由布院には『定番』がないのです。由布岳があり、温泉も多い。でも具体的な観光ルートは漠然としていた。それは私たちの訴求不足だったと反省し、JR由布院駅の隣に『由布市ツーリストインフォメーションセンター』を開設し、お客さまに対応しています」

観光協会・前会長の桑野氏はこう話す。生野氏も「訴求の工夫」を指摘していた。

静けさ・緑・空間を守るための一工夫

由布院を訪れた観光客が多く歩く、JR由布院駅前から続く「湯の坪街道」は、週末や夏休み時期には人波で混雑する。通りの左右には土産物店や物販店が立ち並ぶ。

旧「湯布院町」は、世の中がバブル経済期だった1990年9月5日「潤いのある町づくり条例」を制定し、自然環境や景観、生活環境に配慮した建物や屋外広告物を規制した。その後の合併で「由布市湯布院町」となった現在も、規制を続けている。

だが、理想と掲げる「静けさ」と「混雑」は矛盾する。それでもやり方はあるだろう。
「地震直後は、こんな時期にお越しいただいた観光客の方に、関係者が大分川沿いを案内しました。少し前は取材に同行し、庄内町阿蘇野の『名水の滝』にも行きました。喧騒から離れたいと希望される方には、こうした場所も紹介したいのです」(生野氏)

激増したインバウンド(訪日外国人)への「マナー訴求」も続けてきた。以前は、公衆トイレの詰まりや、川へのゴミ捨てなどに悩まされたが、湯の坪街道のトイレに担当者を立たせて粘り強くマナー啓発を続けた結果、かなり改善されてきたという。